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lov  女教師と

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女教師(以下M先生)

俺が高3、卒業式の後、あまり話す機会がなかったM先生とメアド交換をした。
卒業したら先生とメアド交換するのは珍しくなかった。
家に帰りメールをすると卒業祝いという事で食事をする事になった。
俺は人が多い場所は嫌な性格なので、それなら2人という事で泊まりでM先生の家に行く事になった。
M先生は若く部屋も女性らしい部屋だった。
食事をし風呂に入った。
借りてきたDVDを観たりジュースを飲みながら過ごした。
そろそろ寝ようかという事で布団を敷き、布団の上で話していた。

段々口数も減りお互いの顔を見て微笑む。
俺はM先生のすぐ近くに行った。
顔が合うとM先生は少し赤くなっていた。
また少し会話をしたけど、お互い黙ってしまった。
もしかしたらと思い、少しずつ顔を近づけた。
M先生は照れ臭そうに少し微笑んだが、目を閉じたのでキスをした。
俺は凄くドキドキした。
またキスを2回し、3回目で舌をM先生の唇につけた。
躊躇いもなくM先生は口を開け、舌を絡ませた。
俺はキスをしたままM先生を寝かせた。
興奮した俺は胸を揉んだ。

「んっ…」

少し感じているようだった。
服を脱がせ俺も裸になった。
耳を舐めたりクビを舐めると

「はぁ…あっ」

と可愛い声を出した。
乳首を舐めながら下に手をやると、
凄く濡れていた。
クリを触ると

「あっあっ」

と言い、身体がビクっとなった。
中に指を入れるとヌルヌルしていて暖かかった。
速く動かしていくと

「あっあんあん」
「ダメ…イッちゃう。イクイクっ」

と身体を震わせながら言い

「ダメっイクっ」

と言うと、ビクビクっとなった。
俺は顔を下にやりM先生のマンコを見た。
ピンク色で綺麗で透明な液が垂れていた。
俺がクンニをすると

「あっ気持ちいいっあんっ」

と言った。
少し舐め続けると

「もうダメっイクイクイクっ」

と言ってまたすぐにイッた。
可愛いなと思いながらキスをしようとすると、M先生が俺の頭を掴んでキスしてきた。
M先生の方からしてきてくれて嬉しかったしドキッとした。

「今度は先生ね」

と言いながら俺を寝かせてきて
上に乗り少し長めのキスをしてきた。
俺の首や胸などにキスをしながらどんどん下にいった。

「凄いっ大きいね」

と言ってくれ、俺のチンコにキスをした。
そのまま舐め始めフェラをしてくれた。
激しいフェラではなく、優しかった。
凄く上手くて気持ちよかった。
俺が、

「先生、イキそう」

と言うと

「イッてもいいよ」
「先生の口に出して」

と言ってくれたので、
M先生の口の中に出した。
そのまま舐めたりして、俺の精液を飲んだ。

「いっぱい出たねおいしかったよ」

と言ってくれたが少し恥ずかしかった。

「もう出してしまったからおしまいかな?」

と言ったのでM先生を寝かせ

「先生挿れていい?」

と言うと

「元気だね 早く○○君の挿れて」

と言った。

挿れるとヌルヌルして暖かくて気持ちよかった。

「あっおっきい」

と言ってそのままキスをした。

激しく動かしていくと

「あっダメあっ気持ちいいっ」
「もう先生イッちゃう」
「イクイクイクっ」

M先生の身体がビクっとなり、マンコが締まるのがわかった。

その後バックや騎乗位などでセックスをし、

「またイッちゃう」

と言ってきた。
俺もイキそうになったので

「俺もイキそう」

と言うと

「一緒にイこ?」

と言ってきた。

「イクイクっ」

M先生の中でドクドクとなった。

その後何回もして、中には出さずM先生の顔の所まで行き口に出した。
お掃除フェラもしてくれて、最高の時間だった。


lov  女教師と

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女教師(以下M先生)

俺が高3、卒業式の後、あまり話す機会がなかったM先生とメアド交換をした。
卒業したら先生とメアド交換するのは珍しくなかった。
家に帰りメールをすると卒業祝いという事で食事をする事になった。
俺は人が多い場所は嫌な性格なので、それなら2人という事で泊まりでM先生の家に行く事になった。
M先生は若く部屋も女性らしい部屋だった。
食事をし風呂に入った。
借りてきたDVDを観たりジュースを飲みながら過ごした。
そろそろ寝ようかという事で布団を敷き、布団の上で話していた。

段々口数も減りお互いの顔を見て微笑む。
俺はM先生のすぐ近くに行った。
顔が合うとM先生は少し赤くなっていた。
また少し会話をしたけど、お互い黙ってしまった。
もしかしたらと思い、少しずつ顔を近づけた。
M先生は照れ臭そうに少し微笑んだが、目を閉じたのでキスをした。
俺は凄くドキドキした。
またキスを2回し、3回目で舌をM先生の唇につけた。
躊躇いもなくM先生は口を開け、舌を絡ませた。
俺はキスをしたままM先生を寝かせた。
興奮した俺は胸を揉んだ。

「んっ…」

少し感じているようだった。
服を脱がせ俺も裸になった。
耳を舐めたりクビを舐めると

「はぁ…あっ」

と可愛い声を出した。
乳首を舐めながら下に手をやると、
凄く濡れていた。
クリを触ると

「あっあっ」

と言い、身体がビクっとなった。
中に指を入れるとヌルヌルしていて暖かかった。
速く動かしていくと

「あっあんあん」
「ダメ…イッちゃう。イクイクっ」

と身体を震わせながら言い

「ダメっイクっ」

と言うと、ビクビクっとなった。
俺は顔を下にやりM先生のマンコを見た。
ピンク色で綺麗で透明な液が垂れていた。
俺がクンニをすると

「あっ気持ちいいっあんっ」

と言った。
少し舐め続けると

「もうダメっイクイクイクっ」

と言ってまたすぐにイッた。
可愛いなと思いながらキスをしようとすると、M先生が俺の頭を掴んでキスしてきた。
M先生の方からしてきてくれて嬉しかったしドキッとした。

「今度は先生ね」

と言いながら俺を寝かせてきて
上に乗り少し長めのキスをしてきた。
俺の首や胸などにキスをしながらどんどん下にいった。

「凄いっ大きいね」

と言ってくれ、俺のチンコにキスをした。
そのまま舐め始めフェラをしてくれた。
激しいフェラではなく、優しかった。
凄く上手くて気持ちよかった。
俺が、

「先生、イキそう」

と言うと

「イッてもいいよ」
「先生の口に出して」

と言ってくれたので、
M先生の口の中に出した。
そのまま舐めたりして、俺の精液を飲んだ。

「いっぱい出たねおいしかったよ」

と言ってくれたが少し恥ずかしかった。

「もう出してしまったからおしまいかな?」

と言ったのでM先生を寝かせ

「先生挿れていい?」

と言うと

「元気だね 早く○○君の挿れて」

と言った。

挿れるとヌルヌルして暖かくて気持ちよかった。

「あっおっきい」

と言ってそのままキスをした。

激しく動かしていくと

「あっダメあっ気持ちいいっ」
「もう先生イッちゃう」
「イクイクイクっ」

M先生の身体がビクっとなり、マンコが締まるのがわかった。

その後バックや騎乗位などでセックスをし、

「またイッちゃう」

と言ってきた。
俺もイキそうになったので

「俺もイキそう」

と言うと

「一緒にイこ?」

と言ってきた。

「イクイクっ」

M先生の中でドクドクとなった。

その後何回もして、中には出さずM先生の顔の所まで行き口に出した。
お掃除フェラもしてくれて、最高の時間だった。


lov  小田原物語 第6話

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第6話
健一の子育てを通して、典子の健吾に対する気持ちは揺るがないものになった・・と思っていた。ところが昨夜久しぶりに源二と逢ったら、源二は典子に一晩でもよいから健吾の妻の立場を忘れてほしいという。源二の気持ちは意外に真剣だった。それならと源二を愛する演技をしてみたら、それは演技に終わらず源二を愛している自分を発見することになった。そのことを広子に話すと健吾との関係は典子自身で解決しなさいと言われた。一旦家に帰るというと、源二と少し話をしていきなさいと広子はいう。

階段を上がって源二の書斎に入ると源二が笑って迎えてくれた。

広子さんに話をしていきなさいと言われた。
そうか・・・今日は家に帰るのだな。
それしかないでしょう・・・ここに居る訳にもいかないじゃないの。
居てもいいけど・・・健吾君が怒るかな・・・?
・・・・・。
そうだよな・・やっぱり帰るところは健吾君のところだな・・・?
バカ・・・人を翻弄して無責任なことを言わないでよ。

まあ、ここに座ってと回転椅子をまわして典子の方に向き手を引いた。膝に腰かけて抱き合い、しばらくキスしていた。

あのね、広子さんが・・あなたとなにがあったのかと聞くの。
なんと答えた・・?
私が去年の夏に戻ったと返事をしたわ。
広子はなんと・・・。
それでいいというの・・。

そうか・・・。
でも私・・このことを健吾にどう説明したらいいのかわからない。
正直な気持ちを言えばいいよ・・・。
あなたを忘れられないと健吾に言うの・・・?
うん・・。
言えないわ・・そんなこと。
じゃあ・・やっぱり家に帰らないでここに居るか・・?
・・・バカ。
俺はそのほうがいいのだけれど・・・。
バカ・・・。

〈健吾と話をする〉
帰ると健吾と健一はまだ帰っていなかった。台所の椅子に座ると昨夜からの疲れが出た感じだった。眼を閉じると明け方の出来事が蘇ってきた。両脚を源二の体に巻き付け、腰をくねらせながら悶えた記憶が鮮明に思い出された。健吾に抱かれて涙が出たことなど一度もないのに涙まで出たと思った。体の芯に残る源二の感覚に浸っていると、見慣れた台所の景色がまるで違って見えた。どうしたらいいの・・・と思う。

気を取り直して夕食の支度を始めた頃に健吾と健一が帰ってきた。夏の山は大変だったでしょうと健吾に聞くと、健一はよく頑張った・・無理はさせなかったけどという。お水はちゃんと取ったのねと流しに向かいながら健一に聞くと、ちゃんと飲んだよという。疲れたでしょうお風呂沸かすから、健ちゃんはお父さんと一緒にはいってと言うと、僕がお風呂を洗ってお湯を入れると浴室に走っていった。元気になった健一の姿を見ていると、ようやくここが自分の家だったとの感覚がもどって来た。

二人が風呂を終わって夕食が始まった。テーブルでの会話は賑やかだが典子は溶け込めなかった。山行のことは適当に相槌を打ちながらも、須貝の家でのことが頭に浮かんでくる。健一が健吾と一緒に家を出た頃、自分はまだ須貝と裸で抱き合って眠りこけていた時間だったと思う。時々会話が素通りする。

どうした・・。
えっ・・・あっ・・なんでもないよ。
疲れたのか・・。
大丈夫・・。

雰囲気が違うと健吾に感じ取られたと思った。健一がお母さんはお仕事が大変だね、体を大事にしてねと言う。ありがとう、お母さんのことを心配してくれて・・・と返事する。またしばらく山の話になった。今日は川でお魚を釣らなかったけれどあそこにはまた行きたいと健一は言う。「今度はお母さんも入れてみんなで行こうよ」と言われてあわててうんと返事するのがやっとだった。

健一は元気そうに話をしていたがやがて時々眠そうな目になった。健ちゃん眠いのと聞くと、うん眠くなったという。寝室に連れて行ってタオルケットをかけると、健一はとろんとした眼をしている。頑張ったのね・・。僕は頑張って歩いたよ・・面白かった。 偉かったわね・・じゃあ、お休みと言うと、うんと返事するなり健一はすぐに眠った。

台所に戻って、寝た・・と言うと、すぐに眠ることが出来るようになったのは体がよくなった証拠だと健吾は言う。そうね・・・どんどん元気になっているみたい・・と返事して、典子はテーブルに座ってはじめて健吾と視線を合わせた。健吾が笑っていた。

・・・・。
お疲れのようでしたね・・。
・・・・。
そんなに疲れたか・・?
・・・・。
朝までだったとか・・。
広子さんから・・?

ようやく返事が出来た。健吾は笑っていた。笑いの意味が分からない。

ベッドのことは話したくない・・。
いいよ・・・お互いに話していないから。

でも・・健吾・・わたし去年の夏に戻ってしまったの。
社長をまた愛してしまったことか?それも広子さんから聞いた。
聞いたの・・? 私・・どうしたらいいのか・・。
それでいいじゃないか・・。
いいわけないでしょう・・。
何故・・・?
何故でも・・・。
俺と別れたいのか・・?
そんなことは思っていない。でも健吾に対する気持ちを説明できない・・。
じゃあ話は・・またにしようか・・。
いや・・いま一緒に考えて・・。

別れたいとは思っていない・・?
うん・・健吾とは別れたくない。
でも気持は説明できないのか・・・?
うん・・。
時間が経てばできそうか?
わからない。
じゃあ・・いつか説明してくれ。

でも・・。
心配しなくていいよ。
私のこと・・健吾はいいの・・?
典子の考えを聞いていないから・・いいのかと言われても。

状況は聞いているでしょう・・。
どういう意味?
だって・・・わたし須貝さんと・・。
明け方4時ごろまで抱き合って、また去年の夏のようになったのだろう?
・・・・。

それで・・?
どうしていいのかわからない・・。
それはちょっと変じゃないか・・?

どういうこと?
つまり社長に心を奪われるのはこれで二度目だ・・何か考えはあるだろう。
何かって・・?
自分の心を決める手がかりみたいなもの・・。
私が健吾から離れるなんて考えられない。
そうか・・しばらくはこのままで行くか・・?
このままでといわれても・・。
いいよ・・今日はもう寝よう・・。
・・・・。

何か・・?
健吾・・このまま話をせずに寝たら私達の仲が壊れそう。
そうはならないよ・・。
どうして?
俺が典子を好きだから・・・。

ほんと?
当たり前だろう。
本当なの・・?
嘘をついてどうする。

もう少し話をして・・。
何を話したらいいのかな・・?

広子さんから何か言われてないの・・?
典子が去年の夏に戻った・・とだけ聞いた。
それだけ・・?

それだけだけど・・。
本当にそれだけ・・?
逆に聞くけれど何か社長と約束したのか?
何も・・。
だったらしばらくはこのままでいこうよ。

健吾・・・何故そんなに冷静なの・・・。
そんなに冷静でもないけれど・・。
だってこんな時でも私を好きだといったでしょう。
心のままをいっただけだよ。
私が須貝さんに傾いているのに・・・どうして・・?
本当に傾いているのか・・?
わからない・・でも昨日ここを出た時の気持ちとは違う。
それぐらいだったらそれでいいよ・・。

昨日源二さんに会うまではあなたの妻という立場は崩さないつもりだったけれど、須貝さんから一晩だけでもいいから俺だけを想ってくれと言われて・・・。
それから夢のようなセックスになって典子の考えが崩れた・・。
・・・・・。

よく考えたら俺との間は希薄になっていることに気が付いたということか・・。
希薄になっているなんて・・・そんなこと考えなかったわ・・。
常識的に言えば社長と一緒になると考えるのが普通だが・・。
健吾と別れられるなら悩むことはないわ。
社長が一緒になろうと言ってくれない・・と言う訳か。
源二さんは冗談だと思うけれど、ずっと居ていいよと言ったわ。
ほう・・妻を二人置くのか・・。
バカ・・・冗談に決まっているじゃないの。

それでもいいという気持ちは典子にあるんだろう
そんな・・源二さんと一緒に住むなんて・・考えてもいないわ。
冗談だとしても社長は一緒にいてもいいというのだろう・・・・?

いやよ・・健吾と一緒にいたい・・。
俺と一緒にいて・・心は社長か・・?
ちがう・・健吾も好き。

やっぱり時間を置いて話し合おうよ・・。
健吾・・こんな私を理解できる・・?
急には理解できないが、典子に対する気持ちはむかしから変わらないよ。
嘘よ・・愛想を尽かしているでしょう・・?
俺は嘘をつかない。それは典子も知っているだろう。
・・・・。

俺の言うことを信じられないのか?
信じられたらどんなにいいか・・。
俺がでたらめを言っていると思うのか?
そんな・・そんなこと・・。
じゃあ信じろよ。

ああ、困った・・。
何が・・。
どうしたらいいか・・。
とにかく今夜は寝たら・・。
寝られない・・。
じゃあ・・朝まで話を続けるか・・。
健吾・・抱いて。
どういうことだ?

気持ちが・・どうにもならないの。
気持ちが・・・?
狂ってしまった・・。
まだしたいのか・・・?
・・・・・。
これから社長のところへ車で送って行ってやろうか。
何を言うのよ・・・・。
喜んで迎えてくれるよ・・。
いじめないで・・。

涙を見せてどうする。
健吾・・いじめないで・・。
いじめに思えるか?

健吾・・抱いて。
心に何かが引っかかっていたらできないと言ったのは誰だ?
健吾・・・いや・・。
ヤケ酒と同じだ・・紛らわせても現実は変わらない・・。

どうして私・・こうなったの・・?
知らないよ・・。
あぁ・・健吾が須貝さんのところに行くのを引き止めなかったからだわ。
人のせいにするな・・・自分から喜んで行ったじゃないか。
そうだけど・・・。
もう寝ろ。
いじわる・・。
こんなことをいじわるとは言わない・・。

筋道を通す典子がその夜はめちゃくちゃだった。結婚してから初めて見せた典子の混乱した姿にいささかあきれたが、その晩は健吾が冷静だった。寝室に移って布団を二つ敷いて寝た。すぐに典子は健吾の布団に移ってきた。健吾に抱き付いて胸に顔をうずめたが健吾は賢者のままだった。健吾・・抱いてとまたいったが黙って聞き流した。

朝は健吾が先に起きた。典子を寝かしたままで炊飯の準備をしているところに典子が起きてきた。ごめんなさい・・といいながら朝食の準備を始めた。よく眠れたかと健吾が聞くと、なにかいろいろな夢を見ていたような気がするという。

昨夜話したことを覚えているか? わすれた・・。
わすれたほうがいい。
・・・・うん。

うんと答えたが忘れることなど出来る訳がない。しかし忘れろと言ってくれてほっとした。ほっとしても解決の方法はない。でも健吾は何故冷静な態度を取り続けたのだろうと思う。

〈なにか計画があったのか〉
それからの1週間は日常的には忙しい典子に戻らざるを得なかった。生徒には夏休みだが教員にはない。学校から帰ってくると健一との対応はうまくこなしていた。研修日もあったし、健吾も忙しそうで、そのために二人は別々の時間に眠り、典子は悩みを抱えたままだった。

一週間が過ぎても健吾は何も言わない。典子は自分が健吾に対しても去年の夏と同じ状態に陥っていると思った。あの時も健吾に近づけなかった。だが去年と違うのは健吾の態度だった。典子が困っていることを楽しんでいる雰囲気がある。

須貝との関係がそれでいいと言われても、そんな状態では健吾との生活にいつか破綻する。悩んでいることを健吾は知っているのに平気な顔をしている。どうしたことだろう。

そんなことを考えていたら去年の夏の須貝との関係の始まりが広子さんの計画だったことに改めて気が付いた。広子さんなら健吾を動かすことが出来る・・・。二子に行った時に話し合ったのかもしれない。何を話し合ったのだろう?

しかし健吾も広子さんも私が源二に逢うことは認めている。二人が過ごすために家まで空けてくれた。何をいまさら計画する?
私が須貝さんに夢中になるように仕向けている・・・? 私と広子さんの交換を計画しているのか・・?可能性として考えられないわけではない。しかし部下の妻と自分の妻を取り替えるなんて、須貝の社会的信用を落とすようなことをあの賢い広子さんが計画するだろうか・・・どうもこれはあり得ない。

初めての男は忘れられないものよね・・と言う広子の声が聞こえた。初めての男?・・と私が聞いたら女にしてくれた男よ・・・でもそのあと成瀬さんといろいろあったの・・と笑った顔が浮かんだ。

いろいろあった・・・どんなことだった? 同じことが自分に起きている・・? だからもう一度私を源二さんに夢中にさせる必要があったのだろうか?
源二さんは土曜日の晩、私に健吾を忘れてくれと言った。それはダメだと言うと、一晩だけでもと言われてしぶしぶその気になった。その結果の私が今の私だ。これが広子さんの目的? まるで訳がわからない。

訳がわからないが問題はここにしかないと思う。広子さんはとんでもないことを考える人だから・・。源二さんも動かされているかもしれない。でも、その先が読めない。

〈計画を知る〉
土曜日の夕方健吾が帰ってきた。最近は土曜日も仕事が立て込んでいるから出勤する。住宅金融の利率が低く新築の住宅建設が多くなったのと、金持ちが古民家の移築をすることが結構多い。ああ疲れたという健吾にあとでお話があるというとニヤッと笑った。何を笑うのよと言うと、いよいよ家庭騒動が始まるのかという。何を馬鹿なことを・・それより健一をお風呂に入れてよ・・と追い立てた。

健吾は食事のあと野球テレビを見ていた。放送が終了したので健一を寝かせに連れて行った。居間に戻った典子を見て健吾は・・どんな話になるかなという。

率直に聞くけど・・健吾・・。
おう・・。
身構えることはないでしょう・・。
いよいよ典子の話が聞けると思うと面白くて・・。
真面目に聞いて・・。
聞くよ・・。

健吾・・今回の話はまた広子さんの計画でしょう・・。
計画?
この前の土曜日の話よ。
ああ、典子の失敗劇か・・。
なにが失敗劇よ。
昼まで寝ていて・・食事の後片付けもしていなく、シャワーも浴びないでエッチの後の臭いをつけたまま起きてきて・・。
・・そんなことまで聞いたの・・?
広子さんから・・・。

今度のことは面白半分の計画だったのでしょう?
そんな計画じゃないよ・・。
やっぱり計画があったのだ。

あっ・・引っかかった。
前に私を誘導尋問でひっかけたからよ・・。

でも典子は何をわかっている・・?
私を去年の夏に戻るようにしたのは広子さんの計画だった。
何のために・・・?
とぼけないでいいのよ。二子で広子さんと話し合って、わたしをもう一度去年の夏の状態に戻そうとした。
だから何のために・・?
それを聞きたいのは私よ。計画の中味を話しなさいよ。

よく気が付いたな・・・。
何が目的なの・・・?
でもよかっただろうが・・。
ベッドの上のことは話さないと言ったでしょう。
でも社長から聞いた・・。
やっぱり源二さんも関わっているの?
まあな・・。
もう・・・わたしだけのけ者にして。

のけ者じゃない。
じゃあ何よ。
正直に言うと、今度のことは広子さんと俺が二子に行った時にこの計画が出た。広子さんが言うには、典子は去年の夏を卒業していると信じて社長と逢っているがそうではない。いまは問題がないように見えても自覚していないと俺との関係にひびが入る可能性がある。そんなことになる前に・・教育することだと言った。

教育する・・?
お前は社長と距離をとっていると思っているが、心には距離がないことを知らせる必要があると言う。
知らせる必要・・?
一度揺さぶって本当の心を出させる・・。
本心を出させる・・・?
そう・・一度揺さぶられて本心がわかったら解決は自分でつけさせる。それまで放っておくと言う計画だった。

私が健吾と離婚を決意することになってもよかったの?
そうはならないとみんな思っていた。
わからないじゃないの・・。
なる訳がない。社長とも話しているから・・。

ひどいことするのね・・。
そうでもないだろう・・自分のことを正確に知ることは大事なことだ。自分で解決の方向が出ればよいし・・いよいよ困ってくれば相談も自分から持ちかけるだろうと言う。
あの晩相談しようとしたでしょう・・・。
あれは相談ではない。単なる混乱だ。

じゃあ・・いま聞くよ・・健吾。
ああ・・いいよ。
何よ・・偉そうに。

つまり常識を捨てればよいということさ。
どういうことよ・・?
常識のレベルで悩み続けるなら・・・いずれ社長と別れるか俺と別れるかを決断しなければならない時が来る。

常識を捨てて考えたらどうなるの?
簡単さ・・両方とも好きのままでいいだろう。
そんなことってあり・・?
常識じゃないから・・。
単なる言葉の遊びじゃないの・・。
いやそうでもない。
どうして・・・?

広子さんも前にそこで迷っていたらしい・・。社長にも成瀬さんの奥さんにも遠慮しながら成瀬さんに逢っていた・・。だんだん成瀬さんにのめり込んでいく自分を制御できない気がして・・これではいけないと思い切って絢子さんに相談したそうだ。
成瀬さんと一緒になりたいとか・・・?
そんなことではないと思うが・・不安になって・・と言っていた。

私も須貝さんとは一緒になるつもりはなかったよ。
初めは広子さんもそうだった・・でもだんだん違ってきた・・。
一緒になりたい気持ちが強くなってきたの?
正確に言うと社長より成瀬さんが好きになった・・。
それで相談したの・・・絢子さんに・・?

切羽詰まったのだろう。そうしたら常識を捨てて見たらと言われたという。夫以外の男を愛するのはいけないことだと考えるから悩む・・常識を捨てたら悩まなくていいと言われたらしい。

私もそんな気持になってもいいの・・?
そう言うこと。
健吾はそれでいいの・・?
俺と広子さんともそういう関係になりたいから・・・。
そうなの・・・。
不満そうに言うなよ。
いや・・健吾にはちょっと考えられないことだったから・・。

実はもう一つ問題があった。広子さんにしてみれば今回のことは社長とお前の再教育だったみたいだ・・。社長は自分ではわかっているつもりだったのにお前に幻惑されていたと広子さんは見ている。
なんという人なの・・広子さんは。

でも社長は、あの晩の計画はとてもよかった、俺もふっ切れたとか言って笑っていた。
わたしとの最後のセックスの時・・?
そうだ・・。
どうふっ切れたのかしら・・。
これから典子を本当に愛していくつもりだろう。典子もそうなってくれたらわざわざ一緒になる必要はない。

広子さんには一層のこと健吾と須貝さんを取り換えたらという考えはなかったの?
冗談で言ったことはある。でもいまの世の中はそんなことが簡単でないだろう・・・。それに典子は俺と別れるのは嫌なのだろう?
健一のこともあるし・・それに口惜しいけれど健吾も好きだし・・。
口惜しいなんて言わなくてもいいだろう。

広子さんが言うには・・・もともと世間の常識にはないことをしているのだから、いまさら気兼ねなどをする必要はないと言っているみたいだ。
そんなことだったの・・。
まあそういうことだ・・。
そういうことなの・・わかったわ・・。
本当にわかるのはまだ先のことだろうと思うけれど・・。
どういう意味・・・?
典子にとって、社長との付き合いはまだ始まったばかりだ・・男女の関係はこれからだという意味さ・・。
あなた達もそういうこと・・?
俺と広子さんのことか・・そういうことになるかなあ・・。

〈変化する典子〉
突然降りかかった去年のスワップ計画、その結果須貝への傾斜を強めた夏のこと、京都での須貝の思いがけない告白、そして須貝とはセフレだけの関係と思いながらまだ須貝を想い切れていなかった自分の発見・・いろいろのことがあった1年だった。

広子さんは、私が源二さんとの関係で悩むようだったら常識を捨てなさい・・・それができないなら源二を捨てなさいと言っている。源二さんを捨てるより常識を捨てるほうがいい。これからはそういう関係になれる・・。

もう源二さんとどんなに好きになっても健吾に気兼ねなんかしないから・・。いままで健吾のことが心の隅にあって源二さんに安心して抱かれることが出来なかったがそんなこともなくなる。これも新しい男女の関係かもしれないと思う。

未来の社会ではどんな男女の結びつきになるのだろう・・・。社会の仕組みが変われば家庭の在り方は変わり、家庭の在り方が変われば当然夫婦の結びつきが変わる。北欧では結婚の形態が変わりつつある。パートナーとして生活し、婚姻関係にはない人たちが増えている。日本ではまだ多くはないがだんだんそんなになっていく気がする。

パートナーとしての結びつきがそのまま男女の多重関係につながる訳ではないが、単婚社会では見られない関係がその中から生まれて来てもおかしくない。

短期間でそんな変化は起きないと思われているが、そんなことはない。親の時代には純潔という言葉があり、女の子自身がそれを大事にしたと聞いている。いまは結婚までに複数の男と関係するのが普通だ。自分もそうだった。

結婚までに複数の相手と関係することは何も新しいことではない。江戸時代の若者には自由な男女の交流が制度として許されていた。男は夜ばいをして・・女は夜ばいをされて一人前になった。

先進国の法律は、夫婦の関係については一夫一婦制をとっている。それ以外の関係は法律の外のことで、個人的な問題になる。須貝さんとセックスするようになって夫婦間の関係を調べて見たら、1970年代にアメリカの社会学者オニール夫妻が「オープンマリッジ」という本を書いて自由に愛人を作る、社会的、性的に独立した個人を認める結婚のスタイルを提唱していることが分かった。ずいぶん広く読まれたらしいから、この問題はみんな昔から興味は持っていることが分かる。

最近ネットに出ていたから読んだのだけれど、関係者が互いに自由な性愛を持てる関係としてポリアモニーという男女の関係もあるらしい。ポリアモニーは男女の数が異なってもいいが、私たちの場合は二組の夫婦がお互いに自由に行きかうのだから、ポリアモニーというよりグループマリッジというのに該当するのかな。でも共同で生活していないからそうも呼べないわね・・。呼び方はどうでもいいけど、こんなことが言葉になっているなんて知らなかった・・・言葉があるということはそれが存在しているということ・・やっぱりあるんだ・・。

そんなことを考えていたら夏休み期間が終わりそうになった。

学校には毎日出ているが・・授業がないだけに休みはとりやすい。須貝さんに逢おうかな・・・。でももう二週間以上も健吾としていない・・こんな時に須貝さんのところに行くと健吾は気分を害するかな・・・? 常識を捨ててよいと言ったから文句は言わないだろうが、夫婦だから健吾としようか・・・?

優先順位を考えるなんてずいぶん味のない話・・・少し艶のある話がいいなあ・・・。今夜あたり健吾を誘惑しようか。 誘惑なんてなんとなく優雅じゃない・・。健吾は何というのだろうか・・? お前は社長に逢いたいのだろうというに決まっている・・。あいつは皮肉屋だから・・。

〈復活〉
昨夜健一を寝かしつけて、自分の仕事を仕上げたあと、健吾が書斎代わりに使っている部屋に顔を出した。

お暇・・・?
おや・・俺を誘惑するのか・・?
そうだけど・・・悪い?
いや・・。

何を読んでいるの?
京都の書店が出した古民家の雑誌だよ・・・。
そう・・。ちょっと見せて・・。

健吾に近づいて雑誌を受け取った。机を前にして椅子に座っている健吾に寄り添った。健吾は椅子に座ったまま立っている典子の腰に手をまわして引き寄せた。夏の夜もこの時間になると少し気温が下がってきている。白のノースリーブの腋から典子の匂いが流れてきた。外から虫の音が聞こえる。典子は健吾の傍に立ったまま、受け取った雑誌に目を走らせた。健吾の手が典子の腰の周りに動いた。

古民家を扱っている会社の紹介とか・・課題別の特集だ。
古民家を扱っている会社は沢山あるのね・・。
うん・・うちの会社だけじゃないさ。

健吾はこれから本格的にこの分野のことをするの・・?
社長の方針だ・・。
いいな・・いい仕事だと思うよ。
そう思うか・・。
時代を越えて・・いいものを残す。そんなものを扱えるなんて・・・。

施主の要求で不本意なこともあるけれど・・。
あるの? 
あるさ・・。施主が古民家についての知識がない場合。俺自身の力量もあるけれど・・。

それでもいいじゃない・・健吾が作っても悪いものは残らないから。
建造物は長期間残るよ。
悪いものは100年もすると消える・・・。いいものは残るけれど・・・。
考えるスパンが長いな・・。でも昔のいいものを壊してしまうこともある・・。
源二さんもそんなことを言っていたわ・・。
社長といろいろ話しているのだな・・・。
妬ける・・?
自慢か・・?

しない・・?
久し振りだな。
言わないの・・憎まれ口。
憎まれ口・・?
社長の家に送ってやろうか・・とか。
言う訳がないだろう。

言うかなと思っていた。
こんな可愛い女の子に誘われて・・言うわけはないだろう。
・・・・なにが女の子よ。
まだ二十歳代で通用するよ。
おだててもなにも出ないよ。
そうだな・・出すのは俺だった・・。
俺・・・?
中に出すだろう・・。
バカ・・・女の子に言う言葉か。

寝室に移って典子は脱いだ。白のバックレースのショーツをつけていた。健吾が・・この前社長のところへ行く時に準備したのか・・と聞いた。

そうだよ・・・。
やっぱり社長は特別だったのだ・・。
それはそうでしょう・・半年ぶりだったのだから。
だから顔色が変わっていたわけだ。
顔色を見ていたの・・?
視線を避けていたじゃないか。

これからは顔色を変えずに行くと思うよ・・・。まあウインクくらいはしてやるよ。
小憎らしいことを言うなあ・・・。
健吾が好きだから・・つっぱりたくもなるのよ。
適当なこと言って・・。でも・・久し振りだな・・。
うん・・。

ショーツを取ると整えられた股間が現れた。健吾は去年の夏に広子が源二の趣味だと言ったことを思い出した。社長に気を使っているな・・と思いながら抱き寄せたら、キスしてきた。手を尻から前に廻して触り、整えたのかと聞いたらウンとうなずいた。社長の趣味だろうというと・・そんなこといちいち気にしないのという。

俺は社長と趣味が違うけど・・。
全部剃ってやろうか・・。
バカ・・いいよ。
アメリカでははやっているよ。
ここは日本だ・・。

健吾と抱き合うと友達と抱き合うみたい。
俺はお前の男友達の一人かよ・・。
だったら悪い・・?
たくさんいるのか・・。
バカ・・本気にするな。
いてもいいのだぜ・・。

オッパイ噛んで・・・・。
噛んだ方がいいのか・・?
ああ・・脚の先まで響く・・。
あそこ舐めてやろうか・?
いや・・。
社長に取っておくのか・・?
健吾・・いちいち気にしないの。
そうだったな・・。

ねえ・・この前私の交遊範囲が拡がった時に、他の男と体の関係が出来ても問題がないとか言ったよね。
うん・・。
具体的にそんなことが起きると考えているの・・?
いや・・論理的に言っただけ・・。
論理的・・?

一般論だ・・典子の世界が広がった時に・・そんなことを認めないなんて言う意味がないと思っただけ・・。

そんなことをしたら怒る・・?
したいのか・・?
そんなことが起きたら健吾との関係はどうなるのかなと思って・・・・。
社長との関係と同じだと言ったはずだが・・。

その時はその人の名前を健吾に伝えるの・・?
特定の人を想定して話を持ちかけているように聞こえるけど・・そうか?

健吾・・乳首のあたりを広く吸って・・・やわらかく・・ゆっくり・・。
社長の方法か・・?
またそんなことを言う・・。
そうだったな・・。

うん・・あっ・・そう・・ゆっくり吸って。
同じように感じるのか?
いまは健吾だけ・・もう・・いちいち聞かないで。
夫に抱かれて他の男を考えるのもいいとか聞くけど。
そんなの・・・一般家庭の主婦のすること。
典子は一般主婦を捨てたのか・・。
捨てた・・。健吾・・・して。

健吾は典子の首筋や腋下へ唇を這わせていたが、典子は自分で動いて腰の位置を決め、健吾のものを握って挿入を促した。健吾が典子に従った。

あっ・・健吾・・やっぱり健吾ね。
社長とは違うと言う意味か・・・?
また・・・変なこと言わないで・・。
変か・・?
健吾しかいないのよ・・いまは・・。
ありがたいね。
健吾は健吾よ・・・大好き。
嬉しいことを言ってくれる。

健吾がまた典子の腋下を舐めた。

そこイイ・・響いてくる・・。
何処に・・?
知らない・・。

典子は健吾の脚に自分の脚を絡めて抱き付いていた。

あまり動かなくてもいいからそのまま続けて・・。
動けと言ってもそんなに絡めていると動けないけどな・・・。
いいの・・いい気持ち・・ゆっくり動いて・・。

言われる通りゆっくり続いた。そのうちだんだん熱気が感じられるようになり、典子は階段を上った。大きな波に揺られているようだといい、しばらくして大空に抜けていくみたいだと言った。そして最初の頂点で典子は健吾に抗うように体を反らして達した。

最初の波が通り過ぎると、典子はまた四肢を健吾に絡みつけ、ゆっくり動いてねと言う。健吾はまた言われた通りゆっくり体を動かしていると、典子は雲を抜けて飛んでいるみたいだといったあと、来たと言って健吾にしがみついた。

何だか二度ともスーッと昇っていったみたい・・。
自然な感じか・・?
うん・・とても自然にいっちゃった。
もっと時間をかけたほうがよかっただろう・・?
家では自然なのがいいよ。いつでもできるから・・。
もう二週間もしていないぞ。
誘ってくれなかったじゃない。
変な顔をしていたから誘いようがなかっただけさ。
これからもっと誘ってよ。

向こうへは・・?
晴れの日・・・度々は出来ないよ。
俺とは褻の日か・・?
そうよ・・・褻とは日常と言う意味よ。健吾とは夫婦だから。
俺だけが褻の日だけじゃ詰まらんぜ・・。
広子さんがいるじゃないの・・。

いや美人の嫁さんと晴れの日があってもいいだろう。
じゃあ・・どこか旅行に行こうか・・?
夏休みは終わったよ・・。
無理したら土日の一泊旅行くらいはできる・・。
何時も忙しそうじゃない。
でも・・健吾が褻の日だけではつまらないと言うなら・・。
じゃあ・・計画しよう・・。

広子さんが今度のことを計画した理由がなんとなくわかった気がしたの。
どういうこと・・。
相手を本当に好きだと思ったら体の反応が違うの・・。源二さんを本当に愛していると自分が納得した時、私の体が自分とは思えない感覚になったのよ、去年の夏でもそうだったことを思い出したわ。きっとそれを教えたかったのだと思うわ。

俺とではそうならないのか・・?
源二さんのことが心に引っかかっていて、集中が途切れることがあった。でも今日はそれが解けてうれしかった。

これまで社長のところに行く時俺のことが気になっていたの?
そりゃあ・・気になっていたわ。
嬉しそうに出かけたくせに・・。
いくら健吾が許しているといっても頭の隅に、悪いなと言う気持ちはあったわよ・・・。いままでいわなかっただけよ。

セックスしている最中でも・・?
うん・・あった・・。
絶頂の時も・・。
バカ・・。

面白いものだな・・。
何が・・。
精神的なものがそんなに影響するなんて。
するわよ・・。
女ってそんなところがあるのかな・・。

広子さんの計画は・・私が須貝さんにのめり込んでいくとやがて健吾との間に亀裂が入ると言ったのは嘘だと思う。私が須貝さんにのめり込んでも健吾と別れるはずがないと広子さんは分かっていたはずよ。
わかっていた?
あんな頭のいい人が私の心が読めないはずがないわ。
でも俺にはそう説明した・・。
そう説明したら簡単だから・・・。

何だ・・俺や社長が踊らされたのか?
そうだと思う・・いやきっとそうだよ。健吾を忘れて須貝さんと愛し合えば別の次元のセックスになると言うことを教えたかったのよ。
そうだろうか・・? 俺には典子のことが気になるからと言ったのだが。
あの人は・・考える次元が違うのよ。
そうだろうか・・。
そうなの・・多分広子さんは男女の愛情関係は法的関係には縛られないと考えているのよ。
どういうこと・・?

夫婦だから愛し合うのではなく愛し合うから夫婦なの。
それは当たり前のことだろう・・。
もっと言えばお互いが愛し合っていれば夫婦でなくてもいいの・・でもそれは相手が既婚者ならその配偶者の理解が前提。その理解がなければどんなに愛し合っていてもトラブルを抱えるから二人はいい関係にはなれないということ・・。広子さんはそんなことを教えたかったのだと思う・・。だから私は健吾も大好きで、しかもこのことに理解があるから丁度いいの・・。
そんなところだろうな・・。

話は違うけれど健吾は広子さんと逢っているの?
報告しなければいけないのか・?
だって・・源二さんはみんな話すみたいだから・・・。
話す必要があるのか。
聞きたい気もするけど。

ここのところ仕事が忙しくてあまり逢っていないのだ・・。
可愛そうじゃない・・。
広子さんが・・・?
健吾に逢いたいみたいだよ。
あの人のことを心配することはない・・。
どういうこと・・?

気が向いたら成瀬さんのところにも逢いに行っているよ。二子の成瀬さんの家にお邪魔した時の会話からわかったのだけれど・・。
そんな話だったの。
うん・・。
そのことについて源二さんは・・?
気にしていないみたいだよ。
健吾はそれでいいの?

社長のことだ・・どうでもいいじゃない。
いいのね・・。
どういう意味・・・?
これからは私が広子さんみたいになるのよ・・。
好きな時に社長に逢いに行くと言うことか?
そうなるでしょう・・。
広子さんが家に居ても乗り込むのか・・?
乗り込むだなんて・・。広子さんに話はするわよ・・。

広子さんが居てもいいのか・・?
この前・・見られちゃったし・・もう気にならないと思う。
その時俺も一緒に行ったら・・?
えっ・・あなたは広子さんと・・?
そうなるけど・・。

いやだ・・広子さんそんなことを考えていたのかしら・・。
次元の違う人だから・・。
それはいやよ・・いくらなんでも・・。
いやか・・?
好きな人といる時はその人だけよ・・。そこに健吾が居たら気持ちが悪い・・。
なんということを言うんだ・・・亭主に向かって気持ちが悪いだなんて。

                     第6話 完

第6話で「小田原物語」の第1部は終わりました。これから典子がどんなに変わっていくかわかりません。典子の気持ちが変化して典子が新しい世界に入っていった時にまたお話します。坂口健吾


lov  小田原物語 第5話

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第5話
その日は土曜日だが健吾は出社していた。健吾が帰ってくるまで、典子は学校の仕事を片付けながら、健一の相手をしていた。最近は本を読んで欲しいとか、公園に行こうとか、甘えてくる。遠慮がちだったところがなくなりほっとしているところだった。もっと可愛がって面倒を見ていたらよかったと思う。

広子から典子に電話があったのはそんなことを考えていた時だった。話の仕方でなんとなく広子は健吾に逢いたいのではないかと感じた。夕食後健吾に広子さんから電話がかかってきたと伝えたら、どんな用事だったと聞く。

いろいろ、特にどうという話でもなかった、子育て頑張ってだとか・・・そんな話よ。急ぎの用事じゃなかった・・。あなたが家に着くちょっと前で、会社を出た直ぐだったみたいだった。健吾は、そうかじゃあ明日出かけることにするという。典子は健吾が広子と逢う日だと解釈した。

ゆっくりしてらっしゃいよ・・。
うん・・。
お楽しみね・・。
うん・・。
何よ・・そっけない返事をして・・。
うん・・。
照れているの・・?

翌日は糠のような雨が降っていた。

健吾は健一に向かって、健ちゃん、ごめんよ、今日もお父さん仕事だ・・。晴れそうな空だけれど、こんな日は一緒にお出かけできない。晴れたらお母さんを手伝って買い物に行ってくれる・・?
今日は日曜日でしょう・・・日曜日もお仕事なの・・?
天気のよい日曜日は健ちゃんとお出かけするから、天気の悪い日にお仕事を片付けたいのだよ。

典子は助け舟を出して、健ちゃん、雨が止んだらお買いもの一緒にいってねと言い、出かけようとする健吾に、じゃあ今日はごゆっくりという。

いやそうじゃないよ。
そうでしょう。
仕事・・。
デートでしょう。
いや仕事だ・・。
ハイハイ・・ごゆっくり。

典子にとって土日は一週間の仕事をまとめ、次の週の授業の準備、買い物、と平日より忙しい時がある。復帰の初年度で戸惑うことが多いが生徒との対応には大分慣れてきたと自分でも感じている。職場の仲間との関係も悪くない。もう少し頑張ろうと思う。

男子生徒たちは新任の典子によく話しかけてくる。先週も男の子達が、授業の終わった典子をつかまえて、先生は結婚しているかと聞いた。長男が小学一年生だと答えたら、別の生徒が、二人目が遅いじゃないというし、ひょっとしてもうシングルマザーですか・・と聞く生徒もいた。

二人目が遅いと言った男の子に、欲しいと思っているけれどなかなか生まれなくて・・と言った。生徒はニタッと笑った。おかしいこと言ったかしら・・と聞くと、ギャハと笑った。シングルマザーかと聞いた生徒に、先生がシングルマザーだったらどうなの・・・と聞いてみた。

かっこいいよ・・。先生はそうでなくてもかっこいいのだから・・。
あら、ありがとう。そんなこと聞けるなんてうれしいな。でも大変よ。
何が大変ですか・・?
放課後はすぐに子供を児童クラブに迎えに行かなければならないし、帰ってご飯を食べさせて、風呂に入れて、勉強を見て、寝かせて、それが済んで授業の反省と次の準備をするのよ。テストの成績を付けることもあるし、朝は寝坊させずにご飯を食べさせ小学校に送り、ここへ駆けつける。熱だしたらもうお手上げ。旦那がいるから何とかなることが多いの。

へぇ・・・・。
そうよ・・。
先生の旦那さんは・・?
建築家・・。
すごいな。

典子は授業では教科書を離れて面白い話をした。英語の世界的な広がりは例を挙げて話し、それぞれの国々で英語は勝手に変化しているので、よくわからないことがある、しかし会話とは文法的に出来上がってなくても十分通じる。日本に来たいろいろの国の人々はお互いの国の英語で楽しく意思を通じあっているというと分かったような顔をする。

ヨーロッパの国々の言葉は英語にしてもフランス語にしてもドイツ語でもほとんど共通の形をしているから、日本の方言くらいの違いくらいしかないというと驚き、日本語は起源が違うから日本人が英語に苦労すると言うと安心したような顔をし、しゃべることが出来ればたいしたものよ、がんばろうねと言うと神妙な顔をする。典子の授業は評判がよかった。

〈スーパーで須貝に会う〉
健吾が出かけて2時間ほどすると雨が上がった。健ちゃん今のうちにお買いもの済ませようと車で出た。スーパーのカートに買い物カゴを二個つけて、健一に押させながら品選びをした。健一がお魚というのでサワラの切り身、塩サバのフィレ、冷凍のサンマ、ブリの切り身などを選んだ。肉は豚肉の切落とし、トリの胸肉、ベーコンスライス。キュウリや葉物野菜、ニンジン、玉葱などを選びレジに向かった。一週間分となると多くなる。

レジコーナーを出た。荷物が重いからカートで車まで行こうか・・でも返却に戻るのも手間・・と迷っている時に須貝と出会った。

おや・・・健一君お手伝いか。
お魚のおじさんだ。
おじさんも今日はお買い物だ。お魚を買ったの・・?
買ったよ。
またうちにおいで、お魚料理をしよう・・・。

健一に話しかける須貝に、ご無沙汰していますと挨拶した。

忙しそうだね・・。
ええ、思いのほかに・・。
調子はどう・・?

前に私が職場を辞めた理由を学校は注意して見ているのよ。私も対人関係で辞めたみたいなところがあって・・・・。だから負担を掛けないようにしてくれているみたい。
いい職場ですね。
ええ、それに今年はクラス担任がないから楽なの。
最初の年から担任ということも聞くけど・・。

厄介なのは健一の児童学級が6時に終わることなの。間に合わない時は母に頼むので何とかやりくりできているのですが・・。
ご両親がお近くにおられて心強いですね。
助かる。少し慣れてくれば健一に鍵を持たせるつもりですが・・。

その荷物、車まで持とう・・。
お願いできます?
健一君、行こうか。

駐車場までは少し距離がある。須貝が大きい袋を持ってくれた。典子と健一も一つずつ持った。典子が先を歩き、須貝は健一と話しながらついてきた。日曜日には子供連れの夫婦の買い物が多い。共稼ぎが増えているのだろう。典子と須貝が一緒に歩いていれば子連れの夫婦だと見えるだろう。誰も注意してみている人はいない。車まで周囲の風景に溶け込んで歩いた。

ありがとう・・・須貝を振り返りトランクを開け自分が持ってきたレジ袋を入れた。須貝は健一から一つ受け取ってトランクに入れ、土日は大変だねと典子を見た。母に頼んでここには平日の遅くに来ることもあるの。家の冷蔵庫が空いたので今日は買いだめ。そう言いながら典子は体を寄せて小さな声で・・・時間が取れないわけではないのと言う。・・・・近いうちにお会いできるかな・・・・と須貝が聞く。典子は須貝の方に顔を向けて頷いた。

もと来た方に引き返す須貝に車の窓からバイバイと健一は手を振った。須貝が典子を眼でとらえ会釈した。逢いたい気持ちが急に湧きあがり、体の芯にじんと走るものを感じた。

どこで逢えばよい。ラブホはいやだけれど、贅沢いえないかなあ。典子にとってラブホは手軽に行ける場所ではない。人に見られたらそれだけでアウトだから遠くを探さないと・・・・。須貝さんの家ならいいけれど、この前のようなことがあったし・・・・。あれから何回か逢いたいと言ってくれたのにできなかった。あまり長く待たせるのはかわいそう。それは私も同じ。そんなことを思いながら家に戻った。健吾の顔が浮かんで複雑な思いがよぎる。健吾も素敵・・・でも源二にも逢いたい・・。

〈健吾は成瀬氏に出会う〉
夕食は健一と二人だった。日曜日だのにお父さん遅いね・・という。お仕事が忙しいのよ、今度の日曜日は晴れてほしいね・・・うん晴れていたらお山に行きたい、また高尾山でもいいよ、あそこは大好き・・・今度は歩いて登ろうか・・などと話し、風呂に入れて9時に寝かしつけた。

10時過ぎに健吾は帰ってきた。

お帰りなさい・・夕食は・?
ビールでももらおうかな。でも先に風呂に入る。

典子はビールのあてになるものを準備していると、健吾はパジャマに着替えて出てきた。

昼ごろ健一とスーパーに行ったの。須貝さんが一人でお買い物に来ているのに出会ったわ・・・。
社長が買い物か・・。
広子さんがあなたとでは仕方がないわね・・。
うん・・今日は会社に出て昼近くまで仕事をしていたら、広子さんが来た。出られるかと聞くから一緒に出た。電車で行くというので、車は駅前のパーキングに置いて小田急で狛江まで行った。

狛江・・?
うん、狛江からタクシーで二子玉川の成瀬さんというお宅まで・・・。
二子玉川・・? 成瀬さん・・?
社長の先輩のお宅だよ。奥さんもおられた。

社長の先輩・・・? それって広子さんの昔の人のお宅・・? 
そうだよ。
いやだ・・。
何を勘違いしている・・俺の仕事だ。
・・・・・・?

ビールくれよと言われてあわてて冷蔵庫から取り出して注いだ。

いま俺が手がけている古民家についていろいろ聞きたいことがあった。成瀬さんは古民家についてよく知っていることで有名な人なのだ。大手の建設会社に居るけど・・ビルや巨大工事ばかりが仕事ではない。

初対面だったが丁寧に教えてくれたよ。この前出張で今の物件を見にいった時にいくつか気になったところがあって・・。 すごくいい材が使われているが建物としては傷んでいた。注文主の要望を聞いて設計をしてみたが、材として使うかそれとも建物として残せるかというようなことを聞きたかった。

いろいろ説明していると成瀬さんは物件の上り框の桜の材の話に興味を示し、いま頃そんな桜の材は出ない、そんな家ならほかにもいいものを使っているはずだ、建具には使えるものがあるだろうと言う。
現場を見ないでそんなことが分かるの・・?

経験さ・・・・。傷んでいるというが出来たら建物を生かすことを考えたらどうか、注文主にも君の意見をはっきり言うほうがいいのではないかと具体的に話してくれた。
・・・・・。

いまこのあたりで多く出ている物件は明治から大正にかけて絹産業を政府が奨励した時期に建てられたものだ。持ち主は孫か曾孫の代に入り、その地に居れば管理もされているが都会に出ていれば家に問題がある場合が多い。しかし手には入りやすい、群馬や栃木、長野あたりもよく調べてみることだともいわれた。
・・・・・・。

古民家の売買は難しい。知らずに売り買いして、価値のある建物をダメすることもある。社長も鑑定士の資格は持っているが、気になるというなら先輩を尋ねろと電話を掛けてくれた。昨日時間が取れると連絡があったわけだ。

びっくりした・・。
4Pだと思ったのだろう・・?
ええ・・。
それでもよかったのだが・・・。
いやよ。
典子は関係ないだろう・・。
いやよ・・健吾がそんなことするなんて。

心配するな、そんなことしないから。
じゃあ、広子さんはどうして一緒なの・・?
いけないのか・・? 
いけないなんていっていないわよ・・・。
何を気にしているのだ。
だって・・あなたも広子さんもあまり話してくれないから・・。
世間に自慢できることでもないだろう?
そうだけど・・・。

成瀬さんに聞きたい話が済んだ時、遅いが昼食を準備しているとお誘いを受けた。それで遠慮なくご馳走になった。奥さんとの合作だという。成瀬さんもうちの社長も料理が得意だそうだ。と言うより腕自慢したかったそうだ。
須貝さんもそんなところはあるよね・・・。

むかしの山岳部の人たちには料理の好きな人がいるらしい。お酒もおいしかった。電車で行ったのはそのため。広子さんは成瀬さんの横に座ったから、成瀬さんの奥さんが俺の傍で相手してくれた。典子の考えたことが出来ればいいと思ったけどな・・。

やっぱりその気があるじゃない・・。
気持ちだけ・・・。突然押しかけ、初対面でそんなことできるか。
だって、秘密だというから・・。
まだ秘密にこだわっているのか。お前を担いだのだよ。
わかった・・もう聞かない。

続があるのだけれど・・
続き・・?
もう少し話がある・・・。
いいのよ、もうわかった。

広子さんはいまでも成瀬さんと逢っている。
えっ・・。
広子さんは昼食の時、俺に二人の関係が続いていることを予想させる話し方をした。どうしてそれを俺に伝えようとしたのかわからないが・・。
へぇ・・そうなの・・。
おどろくことはないだろう。
でも広子さんとその成瀬という方のことは10年も前の話でしょう・・?
典子はもうすぐ社長との関係を解消するつもりか・・?
・・・・・。

だろう・・?
じゃあ、須貝さんも成瀬さんの奥さんと逢っているのね。
関係のないことだから聞かなかったが・・。
逢っているのよ・・・・きっと。

奥さんは須貝社長の大学の後輩だ・・。
じゃ、健吾の先輩にもなるのね・・・。
うん、しかし俺とは5年くらい離れているから知らなかったよ。
広子さんくらいの方・・?
うん・・・ちょっと若いかな・・。
お綺麗な方・・?
広子さんに少し似ている。
じゃあお綺麗な方ね・・。

ショックか・・?
なにが・・。
社長がまだその人と、絢子さんというのだが、逢っていたら・・。

去年聞いたらショックだったと思う。でもわたし京都で吹っ切れているわ。だからその方に何かを感じなければならない理由はないということよ。
お前は論理で片づけられるから偉いな。
ほめているの・・それともバカにしている・・?
いや、感心している。

話を聞けば狛江行きは何も秘密にする理由はなかったじゃない。
そうだよ・・。
なによ・・あっさりと引っ込めて・・。
お前がどんな反応をするか試しただけ・・。
なによ・・変なの。

成瀬さんところを出て、二人で行ったのは多摩川の畔に立っているホテルだった。窓から多摩川と対岸の川崎市が綺麗に見えた。高層ホテルでカーテンを開けても下からは見えることはないところだ。
あのホテルね・・。
そう、結構有名だね。

その部屋で広子さんが私のこと言ったでしょう?
わたしの妹はラブホの雰囲気が嫌いだとか・・。
においも嫌いよ。
ラブホは結婚する前には使ったじゃないか・・。

あれは私たちの日常的行為よ・・。
非日常的行為には使わないか・・・?
そうよ、婚外関係には特別な雰囲気の方がいいの・・。
贅沢なところで・・・?
贅沢な時間だから。

そうだな、贅沢なことだよな・・。
むかしは一年の労働の代償だったのにね・・。

それだけでもないだろう、村の遊びの日とか・・?
遊びの日を設けた意味はあると思うけど・・。
調べてみるかな・・。
建築屋が調べてどうするの?
社長は古い時代のことをたくさん知らないと建築家としての腕は上がらないというよ。

そう言えば、大阪で須貝さんはそんなこと話してくれたわ。
ベッドの上でそんな高尚な話をしていたの・・?
その時私たちが何をしていたか教えてやろうか・・。
どうでもいいけど・・・。
想像しても今日はムラムラしないでしょう・・?

健吾は苦笑して、バカと言って典子の額を人差し指で突いた。

〈典子の手枕〉
健吾、もう寝ない・・疲れているでしょう? 今夜は私が健吾を抱いて寝かしてあげるよ・・。私が京都から帰った晩は健吾がそうしてくれたから。
そうだったな・・。
私がしてもいいよと強がりを言ったけれど、黙って抱いていてくれた。いい人と結婚したと思ったわ。
そうか・・すぐ眠ってしまったじゃないか・・。

須貝さんの印象が体に強く残っていた。それを考えてくれたあなたが素敵だと思ったの。
今日は典子が非日常の俺の体を大事にしてくれるのか・・?
うん、そうしてあげる・・・。

少し暑いね・・。
エアコンを強めにしようか。でも眠ったら寒くなるしね・・。
そのままにしておこうよ。
うん・・ちょっと我慢しよう。

広子さんの印象を体に残して妻に抱かれる気分はどう・・? 
したいか? 
うん・・。でも・・今日は健吾の日だから・・
ほんとにそう思っているのか・・?

そうだよ、嫉妬なんか感じないよ・・。
そういえば、俺もあの時そんな感じだった・・不思議に嫉妬心は起きなかった。
へえ・・そうなの。

そんな話をしているうちに、健吾が眠くなってきたという。

私の腕に頭をのせて・・。
腕が痺れるぞ・・。
眠ったらきちんと枕にしてあげるから・・。

手枕はいいなあ・・。
いいでしょう・・。
明日の朝・・するか?
しない・・・学校があるから・・。
してから学校に行くと生徒にばれるのか?
雰囲気が違うという子はいるのよ。このまえそうだった・・・。何でも想像するのが好きなのよ。

どう答える・・?
君たちの成績がよくなれば安心して寝られるのだけれど・・とか・・・。
納得する・・?
意味深長な会話も飛び出すの。栄養学の薀蓄を披露して人の精力を調節する食事だとか・・。
どう返事する・・?
知らなかった・・ありがとう、今度旦那に試してみるとか・・・逆に君も将来役に立つから覚えておきなさいよとか・・。長くなりそうだったら来週の宿題にしようと切り上げるの・・。私をからかって楽しんでいるだけよ。

しばらくして健吾は眠った。健吾は長いこと広子さんとは逢っていなかった。広子さんも楽しい一日だっただろう・・。でも広子さんは前の人ともまだ逢っている・・・。

秋の京都のことも浮かんできた。須貝の意外な告白を聞いて心が揺らいだが、帰ってきたとき健吾はやさしく包んでくれた・・・。健吾に対してやさしくなっているのは、源二さんと近いうちに逢うつもりをしている自分に原因があるかもしれない。健吾の手枕をしながら源二を思うなんて不謹慎かな・・・でもやっぱり源二さんはいい・・健吾とは違う。抱かれると体全体がほっとする。やがて翻弄されるが頂上に押し上げていくタイミングやフィニッシュ時のテクニックは健吾とは違う。それが終われば何時間でも私の体を抱いて愛撫しながら次のセックスへ導いてくれる。でも健吾ともだんだんうまく行くようになって来た。くたくたになった後の感覚が全然違うようになって来たと思う。

〈広子の配慮〉
またしばらく忙しい日が続いて、典子は仕事に没頭した。初年度にきちんと出来れば学校の信頼を得られると思って力を授業に集中した。校長が声をかけて来て、授業がスムーズに進んでいるようですねと言ってくれた。自分も努力したと思っていたし、それが評価を受けているらしいのでほっとした。子育ても何とか行っているし・・・。ほっとした気持ちが出た。

それが典子の心を揺らし、須貝に逢いたい気持ちをさらに膨らませた。人は大きな仕事終えた時に、急にそれまで我慢していたものが欲しくなる。典子にとってそれは須貝だった。非日常の世界に浸りたい・・・健吾も好きだけれど、申し分ないパートナーだけれど、源二との夜は健吾とは異質のもの・・・そんなことを考えていた。

そんな時、広子から電話があった。親たちが伊豆に旅行したために延期した仕事を頼まれたから、一週間先の土曜日の夕方から日曜日の昼前まで実家に帰る、今度は途中で帰らないから・・安心してという。わざと仕事を作ったのははっきりしている。源二が頼み込んだのだろう・・と思う。

そんなこと悪いから・・。
前に残した仕事を片付けたいと親に言われただけ・・。
二子の埋め合わせ・・?
健吾さんと二子に行ったことで私があなたに何か負い目を感じなければならないことがあるの・・?
そうだったら・・と思っただけ。
健吾さんのことで私があなたになんで気兼ねするのよ。
わかったわ。

この前はごめんね。わたしが居ても大丈夫かなと思ったのだけど・・まだダメなの・・?
いやよ・・そんなこと・・。
案外繊細なのね・・。
わたし・・何かがあるとダメな方なの。
源二とのセックスに夢中になれない・・ということ・・?
いじめないで・・ねえさん・・。
正直に聞いただけよ・・。
こたえられない・・。

ところで健吾さん・・成瀬さんのこと話した・・・?
ええ・・。
忘れられないのよ。
そうなの・・。
成瀬さんはわたしにとって初めての人だから。
初めての人・・・?
女にしてくれた最初の男という意味よ。その後いろいろあったけれどまだ続いているのよ。
・・・・・・。
ごゆっくり・・。冷蔵庫のものは自由に使って・・。持ってくる必要なんかないのよ。
ありがとう・・。

広子とそんなやり取りをした後、思いついて通販カタログで白のバックレースのショーツとペアになるブラジャーと紐ショーツとスリットのあるロングベビードールを白で注文した。大胆な下着で源二はきっとびっくりするだろう。特別の日だから、いいじゃないかと思う。健吾の妻という一線を崩さないためにも源二に逢う日は特別な日だと意識したかった。源二は大切な人だが、自分はやっぱり健吾の妻だった。

カタログ販売を利用した理由はこんなものを中学校の教員がデパートで買う訳にはいかないからだ。この町は狭く情報がどこから漏れるかわからない。先日もデパートで買い物をした品物を言い当てた生徒がいた。坊ちゃんの松山中学校と同じだ・・ここは・・・と思う。

健吾には来週の土曜の夜に須貝さんの家に行くというと健吾はそうか・・と言っただけだった。

でも土曜日は四時ごろまでは健一と一緒にいられるの。晴れだったら朝からどこか山に行き、雨だったら三人で横浜のクラブに行かない?
横浜のクラブって・・?
クライミングクラブのことよ。
そんなところがあるのか・・。

いまどきの空はあてにならないから考えたことだと言うと、それはいいかもしれないと賛成してくれた。キッズコースがあるから見学を兼ねてと思っているの・・・。最近はいろいろのものが揃っている・・でもそれは良いようで悪い面もあると健吾が言う。そうね・・自然に親しむのが一番だよね・・・。

一週間後、やっぱり小雨だったので、申し込んでいたクラブに出かけた。指導員の女性が丁寧に指導をしていた。指導員に健ちゃん・・やってみると話しかけられて、びっくりしたようだが、低い地点でのクライミングには興味を示してやり始めた。終わりには結構面白がって挑戦する姿勢になっていた。また来たいかと聞くと、来たいという。両親と一緒だったから機嫌がよかった。

昼を少し回って三人で食事をしてから小田原に帰り、いまからお母さんは泊りがけの研修があるから明日までいないというと健一は素直に頷いた。いいよ、お父さんと一緒だから・・・がんばってねという。

〈須貝との夜〉
必要なものは昨夜のうちに準備していた。通販で購入したものを向こうで使うだろうか・・一年前はほとんどの時間は裸だった・・・と思っておかしかった。でも持って行こうとキャリーバッグに詰めて車に向かった。健吾の方に顔を向けると健吾が見ていた。

健吾・・お願いね。
うれしそうだな・・遠足にでも行くみたい。
日曜日は早く帰るから・・。
いいよ・・ゆっくりで・・。

去年の夏、須貝の家で強烈な経験をして動揺したが、京都・大阪では余裕のある対応が出来たと思う。だから須貝に逢うことがそんなに心を騒がせるはずがないのだが落ち着かなかった。落ち着けと自分に言い聞かせたが、風が体を吹き抜けるような感じがした。

到着の時間を知らせていたが、車を車庫に入れても、須貝は姿を見せなかった。仕方がないので典子は玄関に向かった。玄関のドアに鍵はかかっていなかった。開けて入ると須貝が立っていた。

ふう・・と息をして典子は玄関の中央に立つ須貝を見た。須貝が近づいて典子を抱きしめた。キャリーバッグが倒れた。典子は脚が震えたので須貝に縋り付いた。逢いたかった・・源二・・。長いキスが続いた。唇を離して見つめ、またにキスした。須貝の胸の厚さを感じて・・・昨年の記憶がよみがえってきた。

やっと会えたな・・二度断られたけど・・。
断った訳じゃないわ・・時間が取れなくて・・。
わかっている・・。
やっと余裕が出来て・・・・。
無理させたな・・。
典子のほうが逢いたかったのよ・・。

須貝は倒れたキャリーバッグを起こし、ダイニングキッチンに典子を案内した。動悸が少し収まってきた。壁を見ると版画が変わっていた。須貝は典子の視線の先を見てモンドリアンが好きでね・・という。

5時過ぎね・・・。すぐ夕食の準備をするわ・・。
広子が準備してくれた・・。
・・・・・?
かわいい妹が来るから準備しておくとか言って・・。
まさか?

典子さんが作っているうちに太陽が沈むといけないからと笑っていたけど・・・・。
太陽が沈む・・?
妹は陽の光が好きらしいからと・・・・。

からかって楽しんでいるの・・広子さんは・・。
親切心だと思うけど・・。
ここへ来るなんて図々しいじゃないかと気になっていたのよ・・。
気にしなくていいよ。
陽の光のことはあなたでしょう・・?

うん・・・。
ラブホが嫌いな理由も・・・去年の夏のことも・・・京都の出来事も・・・全部じゃないの・・。
うん・・広子は全部知っている。
そこまで話しているならかえってサバサバするけれど・・・。
もっと割り切ればいいのにとかいっていた。
どういうこと・・?
この前広子が戻って来たとき典子が帰ってしまったことだよ・・。
そこまで割り切れないわ・・。
本当に気にしなくていいのだよ・・あんな女だから・・。

あんな女だなんて、なんという言い方するの?それにしてもわざわざ夕食を作ってくれるなんて・・。
親切は快く受けたら・・?

わかった・・じゃあ準備する。須貝をちらっと見てキャリーバッグを持って浴室に向かった。須貝もすぐに入ってきた。

脱がせる・・と典子の後ろに回った。

白いニットのノースリーブを抜き取ると、白色のブラジャーをつけた上半身が現れた。須貝が後ろのホックを外して取るときれいな乳房が現れた。須貝は乳房に手をまわして抱きしめた。乳首が敏感に反応した。その手の感触は紛れもなく須貝のものだと典子の記憶がよみがえってきた。

典子は大きな息をして、頭を須貝の肩に載せた。須貝は典子の髪に顔をつけ、典子の匂いだと言った。首筋に唇を這わせ、肩から背中にかけて唇を移動させた。典子の首筋は弱かった。すぐに股間に潤いが来るのを感じた。しばらくじっとしていた。須貝は後ろから首筋に微妙なタッチで唇を動かした。膝が崩れそうな感じになる。

須貝の手が紺のスカートのジッパーを探して引き、スカートを降ろした。典子は脚を抜いてはずし、ショーツだけになった。半回転させられ、そのまま抱き合ってキスした。ショーツは後ろの部分がレースで典子のヒップが透けて見える。須貝はレース部分に手をやって引き付けた。

源二・・・・・。
震えているのか?
復帰初年度で4月からすごくいろいろのことが重なって・・・必死だった。授業を壊さないように・・・他の先生方との関係も・・。

授業がうまく進んでいるねと校長が言ってくれて・・張りつめていた心に余裕が生まれて・・・急に源二に逢いたくなった・・。ようやく逢えたのだから・・震えるのは当たり前よ。・・・もっと強く抱いて・・。

広子に夕食を作らせたのは正解だった・・。 
やっぱりあなたがお願いしたのね・・・・。なんとなくそうじゃないかと思ったけど・・。
典子を早く抱きたかったからさ・・。

そういいながらショーツの中に手を入れようとする。ちょっと・・と潜り込みそうな須貝の手を押しやった。自分で取るからといって外し、須貝がブラジャーを入れた洗い篭に入れた・・・後で片づけようと思った。

裸になった典子の姿を須貝が後ろから手を添えて鏡に映した。ヘアーは昨夜処理したので前のように黒々とはしていない。きれいだと須貝がいう。鏡の中には裸の女の首筋にキスしている男がいた。今夜はこの男とずっと一緒だ・・・と思う。どんな展開になるのだろう・・でもなんだか体が変・・・・ワッと叫びたい気持ち・・。

典子は首を傾けてキスを受けていたが、鼻の孔が角張っているような気がした。典子が欲情したら鼻の穴が角張る・・・と健吾がいったことを思い出した。角張っている・・・。なんだかおかしくなって緊張が解けた。くすぐったいよぅ・・お風呂に入ろうと言った。

タブにはお湯が張られていて一緒に入った。後ろから須貝に抱かせた。須貝は典子の体を撫でながら首根っこや肩にキスした。乳房から脇を手で撫でさすり、腰や太腿に及んだ。そして指が股間の奥にまで侵入して丁寧に洗った。

ここは洗わなくてもいいのだが、・・きれいにしないと典子が嫌がる・・。
もう・・バカなこと言わないで・・。そういいながら股を開いた。落ち着いてきたみたいだなと須貝が言う。向き直って須貝に抱き付き、水音をたてながら抱き合いキスし合った。

屹立したペニスが侵入しそうだったので、典子は手でそれを避けてまたキスを続けた。

入りそうだけど・・。 
ここではイヤよ・・。
いやか・・?
ベッドの上でないといやなの・・。

しばらくタブで戯れていたが典子はベッドに行きたかった。出ようというと急いでいるなと須貝はニヤッと笑った。須貝はタブを出てボディーソープを手に取って体全体をざっと洗い、典子に背を向けてペニスをしごくように洗った。屹立していることを隠す必要もないだろうに、背を向けたままシャワーをかぶり、あわただしくタオルで拭いて待っているからとバスローブをひっかけて出て行った。

典子もタブを出て膝をついて須貝が指を入れた部分をきれいにした。立ち上がって水のシャワーを浴びて体をさまし、最後に熱目のシャワーに切り替え短時間だけかぶった。体を拭き、浴室を出て通販で買った白の紐ショーツをつけ、スリットの入った白いロングベビードールで二階に上がった。去年の夏から勝手を知っている寝室の扉を開けた。

〈極楽絵図〉
ベッドで裸になってバスタオルを掛けただけで横になっている須貝は典子の姿を見ておどろいた。典子の体はまるで素通しで、形の良い乳房が透けて見える。股間をわずかに隠しているだけの紐ショーツがかえって目だった。長い脚とくびれた胴を持つ女が絵から抜け出たようだった。

びっくりした?
凄いな・・。
二度も源二にお預けをさせたから・・・。
感激だ・・。
きれい・・?
きれいだ・・・しばらく目の保養をさせてくれ。

須貝は典子をベッドに誘い、ベビードールを取るのは惜しいと言いながら典子を撫でた。そうしてしばらく抱き合ってキスした。典子は早く先に進みたい気もあったが、夜は長いと思い直し須貝の愛撫に身を任せた。まだ明るい空があり、夕暮れまでには間があった。明るい部屋の中で典子の体は輝くようにきれいだった。

素敵な夜になりそうだ・・。
仕事が何とかうまくいって・・・心がほっとなって・・・そうしたら無性にあなたに逢いたくなった。
少し興奮しているみたいだが・・。
そうよ・・すごく・・したい。

須貝はベビードールをとってショーツだけの典子に寄り添って抱き、乳房を柔らかく深く吸い、噛み、腋下をえぐるように舐めた。典子は力を抜いて須貝に体をゆだねた。健吾にはない繊細なタッチが素敵で股間にざわざわとした感じがもう起きてきた。やっぱり源二だと思った。

脇腹から脚に移り、また戻ってきて乳房を吸い、腋下を舐めて、降りて行って足の先を噛んだ。いやだ、このやり方・・初めて・・すごきエッチ・・。

ショーツは付けたままだった。ジンジンと須貝の舌の動きが股間に響いてきた。身の置き所がない感じで、源二に強く抱きしめてもらいたかったが典子の期待を無視して唇はそれからまだ体のあちこちに移動した。

源二・・・・。
・・・?
たまんない・・・。
したいか・・?
したい・・・。

今日は変だなと、典子の顔を覗きこんだ。はずかしいと顔を隠した典子に須貝はのしかかるように抱きしめてキスした。典子も須貝に強くしがみついた。体が震えるの・・しっかり抱いて・・。須貝の耳元に口をつけてそう言いながら典子は須貝の耳を噛んだ。

体の燃え方がいつもの時と違っていた。震える・・と典子はいう。須貝はショーツの紐をほどいて取り去り、典子に膝を立てさせ両脚を開かせた。典子は須貝の意図を察して力を抜いた。須貝の顔が股間に隠れると典子は脚をよじり、手はシーツを掴んだ。だが典子は先に急ぎたい気分が急にでてきた。

源二・・・。
なんだ・・・?
体が熱い・・。源二に体を満たされたくて・・・・。
だから震えていたのか・・・。
たぶん・・・。頭の中を空っぽにしたい。ワッと叫びたい気持ちなの。
一度解き放ちたいのか・・・?
そう・・・ダメ・・?
ダメなことないさ・・。今日は典子の日だ。

お願い。
うん。
それに・・源二も私と一緒にいって・・。
いけば賢者になるけど・・。
一緒に・・お願い・・。今夜は時間があるから・・・・。

須貝が典子の上に体を重ねてきた。ずっと興奮している典子だったから濡れて楽に挿入できた。源二が入ってくると、ああ・・源二・・といって抱き付いた。

最初から典子が積極的だったから須貝が高みに押し上げるのに造作はなかった。10分もすると真っ赤になって荒い息をして、もう変になって来たという。

もういくのか・・?
いきたい・・・。
じゃあ・・。

須貝が力強く押し込んでいくと下腹部が熱を帯びて痺れてきたという。典子は強く源二に抱き付き、脚を絡みつけ腰を須貝に押し付けてくねらせた。痺れは急激に登り沸騰までに時間はかからなかった。あぁ・・イキそうと体を震わせると源二はぐっと腰から押し込むようにして典子のポルチオをペニスの先で捏ねた。その感覚はわかっていた。イク・・・と頂点に駆け上がったが須貝はその動作をさらに続けた。オルガスムスは長く続いた。須貝が微妙に捏ねる角度を変えて典子の高揚した感覚を維持させた。何度かの波をかぶった後どんと打ち上げられ、波打ち際にもまれるようにして終わった。

あっさりといってしまったな・・。
これからよ・・・・抜かないで・・・。

再び動き出した。典子は一度登りつめたので余裕が出たのか、あわただしさが消えて須貝に抱き付いて腰の動きを合わせた。

ああしびれる・・。
どうしたらいい・・?
続けて・・・ああイイ。

須貝は典子の体を全部知っていて、アクセルもブレーキも自由だった。しかし今夜は典子が先に走った。そしてまた来た・・来たわ・・・と須貝の体に両脚を巻き付けて腰を押し付け、またワッと叫んで登りつめた。

またいったわ・・膣の入り口から子宮の奥までが燃えるの。
まだ行きたいか・・・?
うん・・続けて・・・。

貪欲に快感を残さず吸収するかのように荒い息をしながら眼をつむって抱き付いたままだった。そして三度目も同じように燃えた。

息がおさまって来た時、典子は大きな息をして、源二・・・・やっぱり源二ね・・私の体を全部知っている・・といった。

かけ付け三杯みたいだな・・どうしてそんなに急いだ?
体がいうことをきかなくて・・。
健吾君とは・・・。
しているよ・・・でも・・源二は別よ・・。
どうして・・?
贅沢にしたい・・。
贅沢にだったらもっとゆっくりすればいいだろうに・・。
ゆっくりするのはこれからよ・・。続けて・・・。

典子の四度目に向かって須貝が動き出した。これ以上押し付けられないと思うほど典子は体を須貝に絡みつけて唸っていた。須貝の怒張はまた典子のポルチオを突いていた。突かれる度に典子の体はうねり、噴き出した汗が光った。ポルチオの感覚は何時までも続く感覚だった。

今度は典子が頂上への道を制御した。それが出来る体になっていることを須貝は察知して典子の動きに合わせた腰の使い方をした。眼をつむり、口をとがらせ頭を反らし、顔を真っ赤にして交合を続けた。股間の感覚は沸騰しているが脳が耐えている。伸びあがれば源二が引き戻し、両脚を絡めてしがみつくと源二が抽送を工夫して爆発を押しとどめた。ウンウンと唸りながら汗みどろで交合が続いた。

源二・・大丈夫・・?
大丈夫さ・・。
典子の体・・いま凄いことになっているの・・。
顔を見ればわかるさ・・。
こんなこと・・・・健吾とはしたことない・・。
亭主を思い出して気を紛らわせているのか・・。
健吾のことを言わないで・・。
まだ何度かいきたいか・・・?
もういいみたい・・。源二・・一緒に行って・・。

源二が放出した時、典子が言葉にならない声を出し、体をよじるようにして終わった。数分間動かずに言葉もなく抱き合った。汗びっしょりだった。須貝の顔をぼんやりと見え始めた典子はようやく須貝とキスする余裕が出てきた。結合したままそれから長い間キスしていた。

汗を拭きたいという典子の声で須貝は結合を解いた。汗びっしょりで肌はピンクに輝いていたが、汗を拭きしばらくじっと仰臥していると徐々に退色してもとの白い体に戻っていった。

ありがとう源二・・ようやくすっとした・・・。
えらく切羽詰まったようだったな。
仕事が何とか認められて・・・緊張がとけて・・急に抱かれたい気持ちが強くなったのよ。そんなこと経験あるでしょう・・仕事がうまくいった時とか?
わからんでもないか・・。

ずっとこうしていたい気分も残るけれど食事にしましょうかと、先ほどまでの切羽詰まったような典子の様子が嘘のように変化した。典子がベビードールをつけてショーツに手を伸ばそうとすると、これはいいよとパジャマのポケットに入れた。しょうがない人ねと笑いながら薄物を翻しながら階下に降りてお手洗いに入った。

台所に向かってくる典子は素通しで、整えられたヘアーがきれいに見えた。須貝の視線の先に気づいて典子がいった。

なによ、エッチ・・。
いい景色だ・・学校の先生とは思えないな・・。
それをいうな・・・・バカ。

冷蔵庫から広子が用意してくれたものを取り出した。広子さんに迷惑かけたわね・・いいじゃないか・・またなにかお返しする時もあるさ・・・そうね・・と話しながら並べた。

典子の作ったものは和食中心のものだった。刺身はカンパチ、焼き魚はサワラ、ホウレンソウのおひたし、お汁、高野豆腐の煮物、香の物、ツナのマヨネーズ和えが添えられたトマトとレタスのサラダなどがあった。小さな器に入れられて食べられる量が計算されている・・と典子は思った。

お酒飲むか・・?久保田の小瓶があるけれど・・・。
頂く・・。わたし好きなの、このお酒。
乾杯といくか・。

なんの乾杯・・?
400m完走のお祝いだ・・。
400m・・・?
全速力を4回だった。

さっきお風呂場であなたが私を裸にした時に、わたし自分の鼻の孔が角張っている気がしたの。
角張っている・・?
健吾がね・・・・私が欲情した時は鼻の孔が角張るっていうの・・気が付いいた?
いや・・・・。

おかしい・・?
典子にシグナルがあるのはいいことだが・・。
そんなこと・・うちではあんまりないのだけれど。
でも健吾君が気付いたというから、あるじゃないか・・。
そりゃあるわよ・・。
いいなぁ・・。夫婦で欲情出来るなんて・・。
広子さんとはないの・・・?
もう歳だからね・・。
私にとって源二は凄い・・健吾よりいいのよ。
典子だからな・・俺も頑張ることが出来る。

おいしい・・このお酒。お刺身も・・何もかもだけど・・。
俺には典子の方がおいしい・・・。
そう言ってくれるとうれしい。
広子も包丁が使えるようになった・・。
ほんと・・・。私はとても無理だけど・・・。

広子と交代したら・・教えられるが・・。
人の奥さんを口説いてどうするの・・。
ダメか・・?
京都で卒業しなかったの?
典子に逢えばもとの木阿弥さ・・。

そんな話をしながら、広子が準備してくれたものをほぼ食べた。まだあるけれど・・と須貝が言う。いやこれで十分、広子さんの計算通りよ。

お酒もうちょっと・・飲むか? 冷やしたのがあるけど。
もうちょっと頂こうかな・・。

夜は長いとゆっくりと飲んだ。酔っ払わないかしらと典子がいう。人の奥さんを酔っ払わせるのはいいものだ・・飲めよと源二は勧める。結局もう一本二人で空けてしまった。

まだ空に少し明るさがあるな・・・。
7時半過ぎだよ・・。
日が長くなった。
しばらくゆっくりして酔いをさまそうか・・。
源二が勧めるからちょっと飲み過ぎたみたい。
麦茶があるけど・・。
頂く・・。

それから典子の学校の生徒のことや健一のこと等を話しながら時間が過ぎた。9時半ごろになって夕立があり、空は真っ黒い雲に覆われた。明日は晴れそうだなと須貝がいう。

わたし汗をながしたい・・。
そうだね・・。

シャワーでざっと汗を流して二階に上がった。須貝はバスローブを着けていたが典子はバスタオルだけで上がった。バスタオルを取ったら須貝が抱いてきた。

雷鳴が聞こえ、やがて雨になった。激しい雨が窓ガラスを断たしていたが雷雲が遠ざかると雨が止んだ・・。空模様が刻々に変っていた。窓ガラスにはベッドの上の二人の姿が浮かんでいた。

体を解放させたからしばらく何もしないで典子の体を抱いてくれる・・?
ただ抱くだけでいいのか・・。
ええ、眠ってもいいくらいのんびりと・・。
それもいいな・・。
あなたまだ賢者の時間なの・・?
そうでもないが・・。

〈源二の希望〉
ぽつりぽつりと学校の事情を話した。初年度できちんと仕事が出来ると信頼が出る、信頼さえあれば何とかなる・・前の学校で対人関係に悩んだことがあったから・・余計に頑張った・・両親がいるのでかなり頼ったこと・・健吾が協力的だったことなどを話した。須貝は黙って聞きながら、典子の髪の毛をいじったり、キスしたり、オッパイを揉んだりしながら聞いた。

気分が出てきたときは時々もつれ合うようにキスし、典子は須貝にオッパイを吸ってといい、たまに須貝の上に乗り須貝の体に唇を這わせ、それからまた話を続けた。

源二・・少し眠くなった・・わたしの体をずっと撫でていてくれる・・?
うん・・と言って須貝は典子の体を肩から腕に、オッパイから腹部にゆっくり撫でた。いい気持・・と典子は言い何もかも須貝に体を任せ、両腕を額に乗せて体を投げ出した。

須貝の手が乳房から下腹部に至りそこからから股間に届くと・・そこはダメ・・感じさせないで撫でて・・ああ疲れが取れる・・いい気持・・癒されていくという。

健吾は素敵な旦那だけれどあなたは私の特別な人・・あまり逢えないから逢うことがとても貴重なの・・この時間はわたしの贅沢時間なのよ。世間では許されないことが私には許されている。夢のようなことよ・・・。

この前・・校長が来てね、坂上先生の授業の評判がいい、よく頑張ったと言ってくれたの。自分でもすごく頑張ったと思っていた。私の立場がほんの少しだけ固まったと思ったわ。そうしたらあなたに逢いたいとすぐ思ったの・・・。仕事を残してイライラした気分ではあなたに逢いたくない・・。

健吾君とは・・?
うまくいっているよ・・・・・。
俺と逢うのは特別の日で贅沢な日だという訳か・・。
そう・・・晴れの日よ。
わからんでもないが・・・。

思い出したけれど・・健吾が古民家のことを言っていたけど、あれはどうして?
うん、彼にはこれまでの俺の領域を少し分担してもらおうかと思っている。
だから二子に行ったの・・?
俺の先輩の家に・・・専門家だ・・。

ねえ・・源二・・どうしていま古民家が人気なの・・。
いまというより昔から一定の人気はあったよ・・。
でも最近よく聞くから・・。
そうだなあ・・・昔のものに憧れる人が増えたのかな・・。
それだけ・・?
それだけではないと思う。実際古民家の中には美しさがある・・美しさは時間が生み出したものなのか・・あるいはその民家が作られた時からあるものかわからないが、確かに美しい。時代が再認識させたのだろうと思う。
作られた時から美しかったと思うよ・・。
うん・・そうだろうなあ。

典子はね・・・美しいと人が感じるのは人の手が・・上質の手がたくさんかけられているからだと思う。現代建築でも美しいものは沢山あるけれど、あれとは違う・・人の手のかかった美しさだと思う。
うん・・古民家はそもそも芸術品としてつくられたものではない。普通の人が日常生活を送るために作られたものだ。しかし家の各パーツには当時の大工さんが心を込めて作っている。それがまだ利用できる状態で残っている場合は値打ちがある。それに使われている材にいいものがある。いまはもう日本にいい材は少ない。
古民家の価値は大工さんが手をかけた時間と使った素材で決まるのかしら。
それはリカードの労働価値説をいっているのか・・・?
ええ・・。

どうだろう・・。価格はさらに希少性と需要と供給の関係で決まるから・・・。芸術品みたいなものがあるの・・?
芸術品みたいは古民家もあるけれど・・オークションで価格が決まる有名な芸術品とは違う。
どこで決まるの・・・?
買い手の目利きと・・・売主との交渉で決まる・・。以前話をしたことがあるだろう・・俺の目利きは親父から教わったものだが、親父もそんなに知識があった訳でなく、俺がいま苦労していることを・・。
むつかしいのね・・。
だから先輩が頼りになる。
ふーん・・源二の仕事をもっと知りたいな・・・。
一緒になるか・・・?
バカ・・・・出来ないくせに。

典子は体を動かして須貝の胸の中に顔をうずめて抱き付いた。須貝も黙って典子を腕の中に抱いた。ガラス窓に映った裸の二人の動きが止まった。時間だけが動きはじめた。

眠っているか・・・?
ううん・・寝てない・・。
いい気持か?
こんな時間って・・・最高よ。世の中の誰も経験できていない時間だと思う。

賢者の時間が終わりそうだ・・。
いいよ・・抱いてくれる・・。
俺のことを思って体を許してくれる典子が抱きたい・・。
思っているよ、源二。
いや・・少し感じが違う・・。
どう違うの・・。
典子の中に健吾君がいる・・。
健吾の妻よ・・わたし。

うん。
変な返事ね・・。
うん・・。
どうしたのよ・・。
健吾君を忘れてほしい・・・。
また蒸し返すの・・京都の夜を・・。
そうなったらいいなあと思って。
ダメよ、私は健吾の妻なの・・・。
ダメか・・・。

須貝は典子の体を抱き直し、乳房を深く吸いこみ舌で乳頭をこねた。はぁ・・・・感じると典子は体くねらせた。須貝の手が背中からお尻に回り、ウエストのくびれを確かめるように動き、そして典子を引き付けた。

だんだん動きが出てきた。暗い闇をバックに二人の姿がガラス窓の中で動き出した。窓に・・と須貝がいう。顔を横にして窓の方を見ると女の上に男が乗りあげ、乳房に顔を押し付けていた。女は男の肩に手を置き片足で男に絡み付いている。広い窓ガラスの向こうは真っ暗い闇で、二人の全身が映っていた。

だれか他の人が向こうにいるみたいね・・。
そそられるだろう・・・?
また変なこと想像しているの・・いやよ・・源二とだけ・・。
いやか・・?
学校で緊張することが多くて・・だからこうして・・・源二といる時間が大事よ・・・他の人には邪魔させない・・。

典子のいう非日常の意味が分かる気はするが・・。
そうよ・・頑張って仕事を終えるとおいしいお酒を飲みたくなる、あれに似ているかも・・・。
俺は酒か・・・。
とびきりうまい酒・・・典子をとろけさせる・・。

互いにもつれ合い・・さらに時間が過ぎて行った。部屋の温度はあまり低くはしていない。裸で過ごすことを前提にして除湿くらいに設定していた。

喉が渇いたな・・・ちょっとビールを飲んで喉を潤そうと須貝は典子の手を引いて起こした。寝室に備え付けた冷蔵庫から小瓶を取り出しコップに注いだ。

おいしい・・。
うん・・。
いま何時・・?
12時に近い・・・。

あらそんな時間とは思わなかった・・。
楽しい時間は早く過ぎて行くみたいだな・・・。
ほんとね・・。

こんなことを健吾君とやっているのか・・?
してないよ・・。
すれば・・?
健吾とは普通にするだけよ。

もう少しビール飲む?
もういい・・。

グラスを置いてベッドに移り須貝は典子に乗りかかり典子の乳房を吸った・・。深く乳首を咥えてゆっくりと吸った。いい気持・・オッパイを吸われるとだんだん気分になる・・。

じゃあ・・はじめようか・・。
なんだか試合するみたいね。

須貝は典子の体から離れて股間に顔を近づけた。

コラ・・なめたらいかんぜよ・・・・・。
夏目雅子か・・。

須貝が膝をついて体勢を取ると典子は仰臥し股を開いた。須貝が典子の顔を見ると・・・入れてという。それまでに十分気分が高まっていたので、挿入したら典子はすぐに反応した。

今度も典子は最初から飛ばした。両脚を大きく上げてでんぐり返しになるほどに体を曲げた。須貝は典子を折り曲げるように形をとった。須貝の腰が上下に動く程に見えた。こんなのは初めて・・強烈に感じる・・源二・・すごい。

上から覗き込む須貝に、典子は股間が痺れてきた・・むずむずする・・時々光るようなものが見える・・・という。急がないで・・という須貝に、今夜は変よ・・どうにもならない・・と答えた。姿勢を戻そうとする須貝にそのまま続けてという。いってしまうぞ・・と言う須貝に頑張るからと典子は返事する。

しかしすぐに赤い顔をして典子がいやだ・・もういきそうという。練習相手だと思ってなめていたな・・と源二が冗談をいって気を紛らわせようとした。
典子はなんのこれしき・・と返したが、だめ・・不覚を取った・・と言いながら典子は顔を真っ赤にして体を震わせた。ああイク・・・といって顔をしかめて登りつめた。須貝に抑え込まれたような姿勢のまま目をつぶってしばらくは動かなかった。眼を閉じて荒い息を繰り返した。

オマンコが痺れている・・・。
誰にそんな言葉を教えてもらった・・・?
わすれた。
たくさん相手がいるのか・・?
いるわけはないでしょう。

体をほどいて二人は仰臥した。急ぎ過ぎだよ・・という須貝に、体が変になっているの・・・と典子は須貝の手を握って天井を見ながらいう。

やっぱり初年度の仕事は大変か・・。
生徒だけではないの・・職場の人間関係も・・管理が厳しくて教員間で話しにくいことが多いの・・。
むかしとは違うのかな・・。
むかしの話を聞くと全然違うという話よ・・。
それで典子は俺にはけ口を見つけているのか・・。
そんないい方・・いや。
しかしおれはうまい酒だろう・・。
そんなつもりで言ったわけじゃないよ・・気に障ったらごめん・・。

そういって須貝に方に顔を向けると上を向いている須貝の顔が違っていた。視線が遠くにあり、何かを考えているふうに見えた。

〈明け方まで〉
源二どうしたの・・・?
何でもない・・。
何でもあるでしょう・・?
・・・いやちょっと・・・。
何がちょっとよ、こんな可愛い人妻を横に置いて・・・・。

去年の夏を思い出していた。
まだ言っているの・・?
あの雰囲気が忘れられないのだ・・。
なにが言いたいの・・・?
去年の夏、典子から健吾君が消えた時があった・・。
二日目から・・?
そう・・あの日がなつかしい。
それは京都で終わったはずよ。
だから今日の典子には健吾君という壁がある。

健吾の妻だけど源二も好き・・それではいけないの・・。
壁を越えてくれないかなあと思う・・。

いまの私ではいやだというの・・。
なんとなく・・。
健吾の妻ではダメなの・・?
あの日の典子を抱きたい・・・。

今日は変ね・・源二。
去年の典子が忘れられないのだ・・。
変なの。
今夜は俺の典子になってくれ。
どうしても・・?
今夜だけでも・・。

私の心に火がついて・・・私が一緒になりたいと言い出したら・・?
そんなことにはならないさ。
さっき一緒になるかって聞いたのは・・。
気持ちはあるさ・・。
だったら私に火がついたら消せないでしょう?

そんなむつかしいことを言うなよ・・今夜だけ・・。
焼けぼっくいには火がつくものよ・・。
つかないように・・。
ついたらどうするの?
・・・・・・。
私だけが健吾と別れるの・・?
・・・・・・。

ずいぶん虫のいい話じゃない。
怒ったのか・・。
バカ・・嘘よ。
脅かすなよ・・。
なによ・・意気地なし。
参ったな・・。

でもそんなことを源二は考えていたの。
うん・・・。
しょうがない人ね・・・。
わかってくれるか・・。

じゃあ源二のために今夜だけ健吾を捨てようか。
頼むよ・・。

でもそうなるためには自分に暗示をかけるしかないけど・・去年の気持ちを思い出して・・・。
やってみてくれ・・・。
それだってプレイじゃないの・・・結局は。
それでもいい・・・・健吾君の影を消してくれ。

じゃあ始めるわ・・源二も真面目に私の言うことを聞くのよ。
よし・・。

〈幻想の夜〉
典子は去年の夏の自分の姿を思い出そうとした・・。須貝の家に行くまでの自分、居間でキスされた時、ベッドで初めて抱かれた時、翌朝須貝に抱かれてベッドで眼が覚めた時のこと、隣に寝ている須貝を見た時の驚き、そして初めて須貝と燃えた朝のセックス、二日目は一日中須貝に抱かれ、夜遅くから始めたセックスで虹色に乱れ須貝へ傾倒し始めたこと・・思い出せるものを次々と頭の中に浮かべた。

源二の上に体を乗り出して覗き込むように顔を見た。白状するけれど今日はこの顔をまともに見なかった、まともに見るとのめり込みそうで怖かった、でもわたしのことを好きだと告白してくれた・・見ればやはり素敵な男よ・・源二は。

私をものにしたければ私の眼をしっかり見なさい・・・目は心よ。本当に愛する覚悟で見ているの、広子さんより私を愛すると決心したの・・?

ほら・・広子さんより綺麗でしょう? 広子さんとは別れられる・・? 人妻を盗るのなら覚悟が必要だよ・・。

もう一度眼を見てよ・・・源二はもう広子さんには渡さないから。ねえ・・典子だけを愛しているといって・・・・。

そんなことを半分面白がって言っているうちに気分が乗ってきた。須貝は目の前にある典子の乳房を深くやわらかく吸いこんで舌でゆっくり捏ねた。背中に廻した手を静かにお尻に廻して撫でた。アヌスの周りに須貝の指が動いた。

そうよ・・わたしの命を吸い取るように吸って・・・。心を込めて吸って・・。わたしのことを世界で一番好きだと言って・・抱きしめてよ。

須貝は乳房を舐め取るように唇を這わし続けた。そこは子宮につながっているかのように典子の中心に響いた。ゾクッとする感覚が下腹部に生まれた。窓ガラスに映る二人の姿がうごめいていた。

・・・・続けて・・典子はアヌスの周りの須貝の指を意識していった。そこからはこれまで感じられなかったような不思議な感覚が湧いていた。時間が経つにつれて何もかにもこれまでとは違った雰囲気が生まれてきた。

須貝は反転して上になり、典子の首に唇を這わせた。典子は須貝の体重を感じて抱かれた・・・と実感した。やさしさと力強さが感じられる抱擁だった。

須貝が典子の膝に手を遣り左右に両脚を開かせた。典子が腰を動かせて迎えた。須貝に抱かれた去年の感動がよみがえった。健吾とは違う・・・と典子が思った去年の夏の夜である。

あの時に帰ればいい・・・ここは源二と私の二人の世界。須貝さん・・すごい・・と心の中でつぶやいたあの時に帰ればいい・・・。

源二は、典子・・素敵だといいオッパイを吸い、腋下を舐め、脇に唇を移して吸った。典子・・俺の典子・・と言葉が出た。

典子、京都の夜に戻れそうなの・・・源二・・・愛しているといってよ。
愛している典子・・俺の典子だ・・。

そこから典子の気持ちが不思議な展開をし始めた。典子は健吾を捨てた気分で抱かれていようと思った。典子からセックスを楽しむだけという雰囲気が消えて、須貝のすべてを受け入れ、心と体のすべてを須貝の自由にさせる雰囲気が生まれていた。体が須貝に甘えた。体から抵抗が消えて、須貝のなにもかも受け入れる気分が漂い始めた。

そうすると須貝と繋がっている場所から感動の波が典子の子宮を揺すり始めた。快感が下半身全体を洗い、その快感が典子の思考を揺さぶった。気持ちが変化すれば体が変化する。やがて典子には健吾の存在がどうでもよくなってきた・・・。

健吾の妻だと意識して自分を縛って来たが・・・縛られなくてもいい・・・それでいいじゃない。去年の夏からずっと須貝を一途に思ってきた自分に気が付いた。・・なぜ気が付かなかった。・・いや気が付くのを抑えていたと思う。健吾を意識して須貝を封印していた自分の気持ちをいま知った。それはまた感動だった。感動が官能を刺激した。涙が自然と流れてきた。

須貝は初め典子の言葉が嘘実ないまぜになったものだと思っていたが、涙を見せ、震えてしがみついてくる典子に驚いた。女の涙に男は弱い。意気地なしと半分怒りながらやがて本気で俺のために涙流すほどに打ち込んでくれていることに感動した。私は人妻・・といった女が今こうして涙を見せて抱き付いていることに心を揺すられた。

あとはお互いに夢中になっていく二人がいるだけだった。須貝は京都の夜に戻り典子を抱いた。典子が初めて強烈なオルガスムスを知った夜に戻った。

そして典子にあの夜の世界が現れた。靄の世界が見えてきたと典子は喘ぐ。健吾の妻の中から徐々に須貝を愛する女が現れた。典子は須貝に翻弄されることに悦びを感じる女に変身していった。

すごいの・・・源二。
いいだろう・・俺の女になれ・・。
典子は源二のものよ・・。
俺たちの天国だ・・ここは。
源二・・。

やがて赤い靄がかかり始めたと典子はいう。もうすぐ溶岩が噴きだすようになるか・・・そうよ・・私の中に源二のものを注ぎこんで・・。そういったあと典子は口をとがらせて頭を左右に振った。

あぁ爆発する・・源二・・と典子は叫んだ。その瞬間に股間から子宮を通って脊髄に抜ける快感が典子を貫いた。こんなこと・・・あぁ源二・・・といってあとは言葉にはならなかった。溶岩が盛り上がり爆発して・・押し流されて典子は悶えた。初めて典子が知った性の爆発の時と同じだった。

悶えている典子の腰を抱えて須貝はなおも抽送を続けた。典子は須貝が抑え込み執拗に攻撃を加えているように感じたが、その攻撃を素直に受けた。蜜を含んだ攻撃で典子は唸り、震え、須貝に縋り付いて腰を振った。源二・・・源二・・あぁ・・たまらない・・うわあ・・と訳のわからない声をあげてまた爆発した。須貝が攻撃の手を緩めた。

腰の筋肉がビクビクと動いている典子を抱いて須貝は去年の夜と同じだ、いやそれ以上だと思った。やがて典子はぼんやり眼を開けて須貝を見て、源二・・と一度声を出してまた目を閉じた。その後何度かビクッと震えたあと典子はようやく須貝に抱き付く力が戻ってきた。顔を須貝に胸に押し付けて、源二・・夢みたいといって抱き付いていた。

黙って抱き合ったまま時間が過ぎた。動きたくないというより動けなかった。喉が渇いたかと須貝が聞くと黙ってうなずいた。

須貝は典子から離れて備え付けの冷蔵庫からミネラルウオーターを取り出しコップに注いだ。典子は手を伸ばし、起こしてという。引き起こされて起き上がり、コップを須貝から受け取り、しばらく放心したような時間があったが、一口飲んでおいしいといい、それからゆっくりとコップの水を空けた。典子は須貝の顔をまともに見るまでに回復してきた時に・・・去年に戻ってしまったという。

俺も京都に戻っていたな・・。
こんなになるとは思っていなかった。
確かに・・・・素敵な典子だ。

もう健吾に戻れないかもしれない・・・・。
朝になれば・・戻れるよ。
源二を愛していると意識したらこんなになるなんて想像もしなかった。
俺もさ・・。
もう源二から離れられない・・。

それにしても典子の自己暗示の能力は凄いな。
源二が好きだったのよ・・・自己暗示じゃないわ。
うん・・俺も典子が好きだ・・。

源二・・・・抱いて。
まだ続けられるか・・・?
源二が抱いてくれたら・・何度でも・・。
もう十分じゃないのか?
源二はまだでしょう?
・・・・・。
典子だけいったなんていやよ・・。
男も五十を超えるとイクことは重要なことではない。典子を抱いていることがうれしいのだ。しばらく俺の自由にさせてくれないか。
いいよ・・源二の好きなだけ抱いて・・。

そこから源二の愛撫が始まった。須貝は典子の体が好きだった。去年の夏に完璧だと思った体は少し肉がついたとはいえ、かえって脂がのり抱きしめるとその弾力がたまらなく、何とも言えない気持ちになった。嵐に翻弄された体は再び須貝の愛撫に反応しはじめた。乳房に唇を当てると胸を押し出すように体をそらし、頸に唇を当てると典子は須貝の肩を噛み、唇を合わせると舌を絡めてきた。再び体が桃色に色づき、須貝に愛撫に反応してくる典子がいた。

典子にはもう呪文の言葉は必要なかった・・・。キスされて呻き、触られて体をうねらせ、須貝に翻弄される自分がうれしかった。健吾はもうどこにもいなかった・・・ただ源二とだけの世界があった。

激しく愛撫する時もあったが、静かに絡み合う時もあった。須貝はゆっくり時間をかけていつまでも慈しんだ。典子はやがて須貝のものが自分の体を満たしてくれる時が来ると期待して待っていた。須貝が自分の体を貫き、須貝の精が自分の中にほとばしることを待っていた。もしこのままずっと抱かれているだけでも夢のような時間だと思っていた。

どれくらい時間があったか定かではないが須貝の動きが変り、須貝が典子の中に侵入してきた。その時典子は須貝のものが体の奥深く子宮に抜けて来るように感じた。須貝は典子を楽しませるために専念した。須貝にとっては到達することではなく到達までの道のりが楽しかった。典子もそれを知っているからもう自分で走ることはしなかった。源二に抱かれている幸せと悦びをかみしめながらすべてを任せた。

空が明るくなりはじめ典子の姿が窓ガラスの中に微かにちらついていた。白い脚が須貝の背中で交差している。典子は須貝の背に両手を巻いて抱き付き、須貝の腰だけが典子の中心を突いて動いていた。くぐもった声を典子は発し続けていた。いままで経験したことのない穏やかな快感が典子の体をずっと揺すっていた。両脚を須貝の背中で交差させてしがみつき、たかまって来ると声にならない声を出して震え、須貝の肩に噛みつくこともあった。

寝室から見える西空の雲に朝の光りが到達したころ、典子に限界が来た。もう来て・・といったようだった。須貝の腰の動きが変り、須貝に絡みついていた典子の両脚が伸ばされた。その脚の指がモロー反射のように曲がったとき須貝は腰を数度大きく打ち付けた。そして典子の腰を抱き、自分の腰をくねらせて気を遣った。須貝の抱擁に抗するように典子の裸体がうねり、大きな口を開けて・・源二・・・あぁ光が爆発する・・と叫んで意識の外に投げ出された。

〈広子の帰宅〉
朝日が高く昇り、部屋の温度は少しずつ上がってきた。昼近く広子が帰宅した時、須貝と典子はまだ眠っていた。須貝は仰臥して典子に腕を貸し、典子は横向きに体を縮めて須貝の胸に顔をうずめるように眠っていた。

広子は車があるので典子がまだ帰っていないと分かった。台所へ入ると夕食のあとが片づけられていない。まあ・・・片づける間もなくベッドに行ったのね・・・あら・・朝食も取った様子はないわね。まだベッドだわ・・源二も元気ね。

どうしよう・・私が帰っていることを知るとびっくりするわね・・でも帰ってくる時間は知らせていたはずよ・・ここから出て行くのもわざとらしいしどうしようかな。でも二人が私に隠れてセックスした訳じゃない・・起きるまで待っていようか・・と椅子に座った。

でも何時まで待たせるのかしら・・。朝のセックスをしている様子でもないわね・・寝ているのかしら・・。

待つ間に片付けようと食器を流しに運び簡単に水洗いをして食器を洗浄器に入れた。ちらっと二階の方角を見て、寝ているならもう起こそうかと思った。部屋に入っても怒られることはないだろう・・。

どんな姿で寝ているのよ。独り言を言いながら二階に上がって寝室の扉を開けた。そこにはタオルケットをかけて正体もなく眠る二人の姿があった。源二は仰臥し、典子は源二の胸に頭をつけ、両手を源二の胸に置いて寝ている。

あら、典子さん・・かわいい。源二・・・起きていればいい男だけど眠るとまるでだめね・・・。起こそうかと思ったが源二の体がぴくりと動いた。もうそろそろ起きるだろう・・よくがんばったものだと笑いながら扉を後ろ手に閉め、ちょっと立ち止まって中の様子を窺った。

二人が起きたらしい気配がした。立ち聞きしていると二人の話が聞こえた。

起きた・・?
うん・・・・・。

昨夜のこと覚えているか・・・?
覚えているわ・・。
去年の夏の典子に帰ってくれた・・。
源二・・・。
うれしかった・・というより信じられなかった。
典子も・・・・。

須貝が典子を抱きしめた。典子は胸に頭をつけて抱かれるまま、冷たい水あるかしら・・・喉が渇いたという。

うん・・・だけどもう昼・・広子が帰ってくる時間・・・・・。
えっ・・・・。
12時をまわっているよ・・。
あっ・・。

そうよ・・と扉の外で広子が答えた。

いやだ・・・広子さんそこに居たの・・。
いま帰ってきたところよ・・・。
開けないで・・お願い。
あら、またはじめるの・・?
・・・開けないで・・。
じゃあ下で待っているから・・。

広子は階下に降りて行った。足音が消えてから典子が言った。

やだ・・・恥ずかしい・・。
広子の公認だから恥ずかしいこともないだろう。
だって台所も片付けないでこんな時間まで寝てしまって・・。それにわたし脱いだものを全部浴室に置いてきて来た・・。朝片付けようと思っていたのに・・。それにキャリーバッグも・・。何も着るものがない・・お願い・・キャリーバッグを取ってきて・・それからスカートも・・。

紐のショーツならここにあるけど・・といいながら、源二はパジャマを着て一階に下り、浴室にあったキャリーバッグとスカートを持ってあがってきた。脱いだものはそのままにしておいたと言う。

ありがとう・・・ああいやだわ。
不倫現場を押さえられたわけじゃないだろう。
失敗したわ・・。

いそいで服装を整えて典子は悪戯をして見つかった子供のように広子の前に現れた。

ごめんなさいね・・。
あら、何か悪いことしたの・・?
・・・・・・。
日が昇るまでしていたの・・?
いわないで・・・でもあの・・。
ああ、食卓のこと・・?片づけておいたよ。
ごめんなさい・・。

広子・・典子さんを困らせるな・・。
源二も元気ね、相手が典子さんだったら・・。
そう言うな・・。

広子さん・・お願い・・。
なに・・?
健吾に電話かけて・・。もう少ししたら帰ると・・。
面白いこというのね・・自分の亭主に電話がかけられないの・・?
だって・・・。

ああ・・わたしが引きとめたことにすればいいのか・・。
お願い・・。
かわいいこと頼むのね。

そういって広子は健吾に携帯で電話した。昼ごはんを一緒に食べて帰るからと伝えた。

ゆっくりしていいそうよ。いま健吾さんは家にいないの。天気がいいから健一くんと箱根の山に行っているそうなの。
ああ・・よかった。

〈広子と典子の話〉
よくないわよ。
・・・・?
あなたの体・・・源二と抱き合ったままの体よ。唾液の匂いをつけて帰るの?健吾さんぎょっとするわよ。シャワーを浴びなさい・・・出来たらお風呂に・・源二も一緒にはいってきて。

典子はうろたえた。須貝が何か言おうとしたが、広子は昼食の準備する間に入りなさい・・時間の節約だという。問答無用の雰囲気にのまれて結局二人で風呂に入ることになった。

服を脱ぎながら典子はああ失敗した・・でも広子さんは私を困らせて楽しんでいるみたいねというと、ああいう性格だと源二は気にしていなかった。

昨日の風呂とはだいぶ感じが違うな。
これから裁判を受けるみたいな気持ち・・。
いや、あれ以上は何もいわないよ。
そう・・・?

広子は用件を言えばそれで終わりだから。
私だったら気が付いていてもいえないわ。・・唾液の匂いだなんて・・。
言いようだろうけれどね・・。

俺が典子にのぼせたから失敗したよ・・・。
最後は訳が分からなくなって・・・。
最後は二人とも力尽きていた・・・寝坊するはずさ。

人の家に泊まって、旦那さんと寝て、奥さんに食事を用意させて、朝はその旦那さんとお風呂なんて・・想像を絶することよね。
こんな話はどこにもないだろうな。

湯船を上がったら須貝がボディーシャンプーをつけて後ろから洗ってくれた。肩からウエストへ、脇腹、オッパイから下腹部へ、両方の脇の下、両脚を大きな手で丁寧に洗ってくれた。須貝の手が動いてもさすがもう官能は刺激されなかった。あとは自分でするからあなたも自分で洗ってといい、須貝の手の届いていない部分をきちんと洗い、シャワーで流した。

髪を洗うからと須貝には先に出てもらった。姿見に映る自分を見た。輪郭がぼんやりしていた。健吾には気づかれるだろう・・・鼻の孔の形で気付く人だから・・。髪と顔を洗いもう一度鏡を見た。化粧をしていないから輪郭が朦朧としている・・どうしようかと思ったが、もうこうなればこれで失礼して昼食のあとにしようと思う。

ブローしてダイニングキッチンに戻ると、簡単だけどこれで昼食にして・・と広子が言う。化粧のないことはいわれなかった。

昨夜からのことも話題にしなかった。山に行った話や健一の健康状態などが話題になった。食事のあと須貝は仕事をするからと書斎に消えた。

一時間ほどいいでしょうと広子がいう。
ええ・・でも早く帰らないと・・・
じゃあ3時まで・・紅茶を淹れるわね。
ごめん・・ちょっとお化粧してくるから・・。

そう言って典子は浴室に戻り、洗い篭のものをビニールの袋に入れ、簡単に顔を整えた。ああ失敗した・・と思いながら戻った。

はじめて昨夜からのことが話題になった。

楽しかった・・? でもこれは愚問ね・・。
本当に・・なにからなにまでごめんなさい。
気にしなくていいのよ。でも若いわね。
久し振りだったから・・。

健吾さんとは・・?
健吾とは普通。
なんで源二とこんなに・・?
贅沢な時間にしたかった・・。
贅沢・・? 
説明しにくいけど・・そんな気持ち。

何時頃まで・・だった?
・・4時だったかしら。

どんなことすれば夕方から朝の4時ごろまで過ごせるの?
聞かないで・・・。
はずかしい・・?
いま説明するとバカみたいなことだから・・。

そうよね、人に見られたらはずかしいことを当人たちは必死でしているからね・・。
ええ・・変な説明にしかならないわ。
でも教えてよ・・・。今度健吾さんとするから。
源二さんがお話すると思うけど・・。

何か変わったことあった・・?
変ったこと・・?
源二がまた口説いたとか・・・。
うん・・・。
それでどうしたの・・・?
嬉しかったわ・・・。

あら、寝取ったの?
ええ・・。
説明して・・。源二は私の亭主だから私にも一応聞く権利はあるわね。

一晩だけのつもりだったけど・・・。
今朝は・・。
まだ続いている感じ・・。
終わらないのね・・・。
広子さんごめんなさいね。

私はいいのよ・・それより典子さんは大丈夫なの・・?
健吾とこれからどうなるのかわからないけど・・。
そうよね。・・でどうするの?
源二さんも・・健吾も二人とも好きなの・・。

だったら大変ね・・・・。
ええ・・・?
よく健吾さんとお話しなさいよ。
どう話してよいかわからない・・。
それはあなたの問題だから・・私は手助けできないわね。
・・・でも・・。
それだけはあなたの問題よ・・・いい?

突き放すように言われて典子は自分の置かれている位置が急に不安になって来た。もちろん自分がそういう状況を作ってしまったことの自覚はある。家に帰らなければならないことはわかっている。また典子は去年の夏と同じ精神状態になっていた。
                     第5話    完


lov  小田原物語 第4話

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第4話
典子は、自分が須貝と京都・大阪を旅行してきたから、そのうちに健吾と広子もどこかに出かけるものだと思っていた。しかしその気配がない。気になったので聞いてみた。

あなた達はいつなの・・?
あのことか・・。
行かないの・・?
気になるのか?
なるわよ・・。

いまは行かない。
何故? 
理由はいろいろ。
なに、それ・・・。

広子さんの話だけど・・。
会社でお話したの・・?
うん、社長が京都のホテルでのことを広子さんに話して、それで広子さんが少し考えたというのだ。

私のことが問題になったの?
典子のことは問題にしていない。社長が典子に言った内容のようだ。

もうこんなことはやめようというの?
そうではない。
どうしようというの・・? 
この話はもともと夫婦関係が壊れることは想定していない。その逆だった。
逆・・・?
俺たちの夫婦仲がぎくしゃくしていた時、それを何とかすることだった。
ええ・・・・。
でも、8月の君は問題があった。
今は違うよ。
今度は社長だ・・・。 
そこを問題にしているの?

それが問題だとは言わなかった。
じゃあ何が問題なのよ?
分からない。広子さんは考えるのが好きだから何か考えているのだろう。

理解してくれたと思ったのに・・・・。
理解してくれなかったら困るか?
私の心は決まっているけれど・・・・。
ん・・?
健吾と別れるはずがないわ。
そうか・・?
そうかではないでしょう。
そうなるかもしれないと出かける時にいったぜ。
そんなこと・・・初めから考えていなかったわ。
そうか・・・・。
そうかではないでしょう。

〈忘年会〉
そんな話をした後でも、健吾はいつもの通りの生活である。暮れに近づいて建築の仕事はぐっと少なくなった。それでも土日に出社することもある。典子も以前の生活に戻った。

師走に入った。小田原は暖かなところで真冬でも気温がマイナスになることはほとんどない。冬の間は良い天気が続く。富士山はもう真っ白になっている。こんな時でも富士山の登る人も居る。山の姿から登りやすい山だと思う人がいるかもしれないが、専門家の間では冬の富士山は恐ろしい山で知られている。毎年滑落事故が起きる。富士山特有の突風がありそれに足を取られたら終わりだ。

健一を午前9時に幼稚園に連れて行き、それから洗濯物を干し、スーパーで買い物をする。健一を午後2時過ぎに迎える単調な生活が続いた。来春4月になれば教員に復帰できると知らせを聞いたのが大きな事件というくらいのものだった。師走の十日が過ぎた頃、広子から典子に電話があった。

お元気・・?
ええ、みな元気にしています。
健吾さんや健ちゃんもうちに来て頂いて、忘年会をしませか。
去年はお世話になりました・・・でももうそんな時期ですね。
相模湾の冬のお魚がおいしいのよ。
お魚じゃあ私はお手伝い出来ないと思うけど・・。

お客様にはちょっとだけ手伝ってもらうわ。
でも大変でしょう。
源二がやりたいというのよ。クリスマスの前ごろはどうかしら・・。
はい、ありがとうございます。

四月から教員に復帰できそうと伝えると、よかったわね、そのお祝いも兼ねましょうという。夕方健吾が帰ってきた時、電話があったことを話すと会社で広子さんからその話を聞いたという。

二十日がいいというのだ。俺は何も手伝えないけれど・・。
私だって・・。
社長のこと何か言った・・・?
何も・・。
じゃあ、気にするほどのことじゃないと思うな・・。
そうだといいのだけれど・・・。

なにか持参しないといけないが・・・
お魚だったらお酒ね。
そうだなあ、準備しておいてよ。

前の日にデパートで魚料理に合うものを聞くと地元のものはどうかと言われた。
全国的には名前は知られていないがまずまずだと勧められた。二十日の昼過ぎに、典子は夫と健一を連れて一緒に伺うと、玄関に須貝があらわれた。お久し振り、よくお出でいただいたと三人はダイニングキッチンに案内された。昨年の夏以来だった。典子は壁にかけられている絵に目がいった。あの時はモンドリアンの版画だったが今度は平山のシルクスクリーン・・・だと思う。莫高窟だと須貝は典子の目線の先を見ていう。莫高窟はお好きですかと聞くと、特に好きだというわけではないがなんとなく感じがいいのでという。健吾は広子さんに挨拶しているところだった。

寄り添うように須貝の横に立ってしばらく黙って莫高窟の絵を見ていた。健一のワッすごい魚という声にふり向いた。

氷詰で姿のままの魚が入っている発泡スチロールの箱の蓋を健一が開けたところだった。須貝が笑いながら健一に近づいてたくさんあるだろうと話しかけた。典子も近寄っていくとそれらの魚がイシダイ、タチウオ、クロムツ、ヤガラで駿河湾の冬の味覚だと聞かされた。典子はヤガラを初めて見た。嘴の長い赤い奇妙な魚である。健一は興味深げに座り込んで見ていた。これからおじさんがお魚を料理するから健一君は見るかと聞く。健一は見たいと須貝について流しの傍に移動した。

須貝は魚を刺身、吸い物、煮物用にさばき始めた。広子と典子はその間は何もできないので少し離れたところに座って待っていた。広子は典子にくだけた話し方で接したが、典子は丁寧な言葉を使った。広子は小声で、典子さんお互いに遠慮しないで話をしましょうという。怪訝な顔の典子に、丁寧な言葉を使われるとお話がしにくいのよ、私たちはきょうだいだから・・・といって笑った。

きょうだい・・・?
そう、きょうだいじゃない。
私たちがきょうだい・・?
そうよ。むかしからそういうのよ・・・こんな関係。
こんな関係・・?
配偶者を交換した関係よ。
・・・・・・。
しらなかったの・・・?
ええ。
男たちはそう言うのよ・・。
何と返事してよいのかわからないので、曖昧に笑っていたら、これからも仲良くしくねという。これからもそういう関係で・・ということかと思う。あわてて、いいえこちらこそと返事した。その丁寧さをやめようというのよと広子は笑った。

健一は須貝から少し離れたところに置いた台の上から見ていた。健吾は健一のうしろに立っていた。須貝はさばきながら健一に何やら話しかけていた。健一の眼が真剣なのに典子はおどろいた。健ちゃん面白いのと聞くとうんといったきりずっと見入っている。須貝のさばき方は見事だった。魚屋さんみたいでしょうと広子が言う。ええ・・すごい腕ねと典子は感心して見とれていた。

魚をさばき終わった須貝から、さあお二人さんたちの番だよといわれ、二人はじゃあ・・・といいながら台所に立った。

見事ね・・これ。
包丁の違いだと源二はいうの。今朝からずいぶん丁寧に研いでいたのよ。
でも、それだけではこんなに綺麗にさばけないわ。

ヤガラと太刀魚は刺身にしましょう。イシダイは煮付け。ヤガラのアラで吸い物の出汁をとるの。クロムツはお鍋ね。広子の指示で調理が進んだ。

きれいな刺身の盛り合わせが出来た。煮物や吸い物も出来上がり、クロムツを中心にした鍋の材料も盛り付けた。テーブルに並べると豪華だった。そのテーブルには切り込んだ鍋用のガスコンロがあった。

料理は大体揃ったわね。
源二さん、ほんとにお魚の料理が得意ね。
役に立つでしょう。
ええ・・・・見とれてしまったわ。

逢いたい・・?
えっ・?
源二と・・・。
・・・・・・。
終わりにしたい訳じゃないでしょう?

ええ・・。
まだ若造みたいで、気にならない?
若造・・・?
そう、あとさき考えないところ。
それは・・・前に私だって・・。
あぁ・・・あなたも若かったのだ・・。

あら私、若いのかしら?
京都の夜のこと・・聞いたから・・。
・・・・。
レストランから部屋に帰ったあとのこと・・。
いやだ、そんなこと話したの。
典子さんのような人は初めてだって。
・・・・・・。
いいのよ・・・うらやましいなと思っただけよ。

源二さんが私に言ったこと、気にしているの・?
私が・・・?
ええ・・・。
どうして私が源二のことを気にする必要があるの?
だって・・・健吾と出かけないから・・・。
健吾さんと私が出かけなかったら、あなたは源二と出来ないの・・?
・・・・・。
あなたはもっと積極的になってもいいのよ。
・・・・・。

広子がいうことの真意はつかめなかった。しかしもう掴もうとする必要もない・・・気楽にしようと思った。忘年会は盛り上がった。クロムツの鍋がことのほかおいしかった。典子が持ってきたお酒は好評だった。鍋にはビールも合った。代行運転を頼んでいたので、健吾も典子も自由に飲んだ。典子と健一の4月からのことが話題になった。典子はこれからの不安を、健一は期待を話した。夕方、そろそろお邪魔しようと健吾がいい、タクシーに電話した。

タクシーの中では健一が魚の料理のことや、味について盛んに健吾と話していた。典子はその話を聞きながら、広子の話を思い出していた。きょうだいか・・・と心の中で笑ってしまった。

正月が来た。いつもの通り年賀のあいさつに伺う。手の込んだおせち料理が作られていて須貝と健吾はよく飲んでいた。帰り際に広子は健一にお年玉を渡し、典子を呼び止めて源二はあの調子だけれど・・よろしく、それに私も健吾さんに逢いたいし・・という。よいお正月でしたと礼をいうと、典子の眼を見ながらいい年になりそうねと笑った。

典子は何かを考えているような広子が気になった。回転が速いので掴めないところがある。そう思いながら広子の眼を見ると、笑いながら何も考えていないわよ、あなたが復職できるからいい年になりそうねと言っただけという。こちらの心の隅まで見透かされているような気持ちになる。

〈再び教員になる〉
典子は小田原市の中学で英語教員として働くことになった。健一の小学校入学と重なり、4月までは何かと気忙しい日が続いた。同じ市内に父母がいること、母親に頼れることで安心があった。健吾は一度この間に広子と機会を作って逢ったようだったが、典子はとても無理だった。

健一の入学式が終わってしばらくした頃、職場の見通しが何とか出来そうに思えた。もう少し先には新任研修がある。そのうち泊まり込みの研修もあり、市内の研究センター研修もある。そのことを母親に話して、協力を求めた。

結構大変だね、最近の先生は。
そう、なにかといえば研修。生活のやりくりが大変なの・・。
困った時はいつでも気楽に声をかけて・・応援するから。
ありがとう、助かる。

健吾にもいろいろ厄介をかけるけれどお願いねというと、出来るだけのことはするよという。

英語の教員か・・。典子は会話が出来るから楽だろう。
確かに最近は会話が重視されているから私には楽だよ。でもなんでこんなに会話を重視するかわからない。
そりゃ、会話できなければ意味がないじゃない。
でも、普通の人は普段英語で会話をしないよ。
当たり前だろう。
そんなに重視しなくていいと思うけど。

外国で活躍する人も最近多くなっているから・・・。商談で人が日本にくる時代でもあるし・・。
そうだけど・・・。そんなこと会社はこれまでも十分対応しているわ。
なにが典子は気になるのだ・・?

最近は大学で講義を英語で行うことが推奨されているの・・・・知っている・・?
いいじゃない・・。
いいと思う?人は母国語でものを考えるのよ。講義を英語でやれば聞く練習にはなるけれど、講義内容の理解はむつかしいと思う・・。 大学の先生が下手だから・・?
大学の先生は自分の専門のところは大抵英語で話せるわよ。それに講義はちゃんと準備してくるから・・先生にはそんなに負担にはならないわ。
聞く学生が大変か・・?

そうよ、英語で聞いて理解するのは大変だよ。
それでも国際的になり、悪くはないだろう?
10年ほど前に全国学力テストがあったけれど、秋田県が全国一だったの。小さな村の小学校がトップだったのよ。その村は図書館司書の人をきちんと配属して、予算も普通の県の4倍も使って図書館を整備しているの。毎日の読書に時間をかけているのよ。母国語を大切にすることが大事らしいと外国からも注目されているの。
日本でそんな話があるのか・・?

明治維新のあと、日本政府は外国人の教授を多く雇ったわ。講義はもちろん外国語よ。けれどすぐに明治政府は大学で日本語の授業が出来るように努力したのよ。そのために西洋の術語を全部日本語に翻訳したの。それって凄いことなの。
そうか・・・。

明治時代から自国語で高等教育がきちんと出来たのはアジアでは日本だけよ。そんな日本で英語の授業が推奨されるのがおかしいというか・・何だか変な話でしょう。そのために私たちの研修がきついのよ。

でも典子は英会話が出来ることで就職が有利になったからいいじゃない・・。
まあね・・・・難しく考えないほうがいいかな。何か言うと問題になる時代だから。

〈須貝の家に〉
四月の末に一度典子は携帯に電話がかかり須貝に誘われた。雪の富士山を見たい、車で箱根に出かけようという。帰りにどこかで休息しようという。場所を聞けばそこはラブホだった。しかし典子はラブホの雰囲気が肌に合わなかった。それにまだ学校の状況から心がそちらの方に向く余裕もなかった。少し待ってと断った。連休明けにもう一度誘いが来たがまたすこし待ってと返事した。

去年の夏、須貝の家でカーテンを開けたままの明るい室内で抱かれた感覚が新鮮だった。明るいベッドの上で須貝と絡み合っていた自分の姿が蘇る。特別な日は特別な雰囲気がほしい・・。京都でも昼間は明るい部屋だった。二度目の電話の時に・・・・そんなところではと言葉を濁した。

いやか? 
特別な日だから・・。あなたと逢うことは度々じゃないでしょう。その時間を大事にしたい。
典子にそういわれるのも悪くないな。そんなに大切に考えてくれているのか。
ごめんなさいね・・・でも私の正直な気持ちよ。
いや、うれしいよ。

そんな会話をしたことを思い出していた。それからしばらくして、広子からびっくりする電話がかかってきた。よかったらうちを使ってという。

最近実家に行く用事がちょっと増えたのよ。両親も齢だからいろいろ手伝わなければならないことが出てきてね。その時はどうぞ・・・。
源二さんが話したの・・・? そう、源二から聞いたよ。
でも・・・・そんなこと・・。
いいのよ、前にもう使ったじゃない。
あの時は・・。

うちでした感覚が忘れられないとか・・。源二にそういったのでしょう?
そんなこと源二さんは話したの・・?
そうよ。あなたのこと何でも話してくれるのよ。
いやだなあ・・・はずかしい。
そんなにはずかしいことしていたの? 
いじめないでよ・・・。
うらやましいなと思っただけよ。

いいの・・?
いやだったら電話なんかしない。大切な日はそんなに度々ではないでしょう。
源二さんは何でもしゃべるのね・・。
そう、あなたのだいじな人はお喋りよ・・。
いやだなあ・・何だか広子さんに覗かれている気がする。
覗かれて興奮する人もいるのよ。
もう・・・何をいうのよ。

源二には私が実家にいく日は伝えておくから・・。
ありがとう・・。
そうだよ、やさしい姉さんでしょう。

連休の次の週に、木曜の職員会議が終わった時に源二からメールが来ていた。土曜日には昼過ぎから広子は親のところに行く予定だとある。うれしい・・・とだけメールを返した。

土曜日の朝に、夕方から須貝さんのところに行く、いいでしょうと健吾にいうと、広子さんの了解が出たのかと聞く。

了解だなんて・・・実家のお手伝いよ。わたし・・遅くなっても朝までには帰ってくるから。
泊って来てもいいよ、どうせ次の日は日曜日だろう。
でも・・健一と遊んでやらないといけないし・・。
いいよ・・俺が面倒見るから・・。
うん・・出来るだけ泊らずに返って来るけど、帰れなかったらごめんね。

その日も健吾は会社に出た。典子は学校の仕事と健一の相手で忙しかった。夕方、健一にお母さんはお仕事で今夜はお外に出るから一緒に食べられないけど、お父さんと一緒に食べるかと聞いたらそうするという。そんな話のところへ健吾が帰って来た。

健一とあなたの夕食は準備しておいたから、お願い。
典子はあっちか・・?
向こうでなにか簡単なものを作って二人で食べる。広子さんは昼過ぎに実家に行ったらしいから。

親密だな・・。
大丈夫よ。
いや、社長がさ。
大丈夫でしょう・・。
火種は残っているよ。
心配なの?

いや、典子は信用しているさ。
自分の会社の社長さんは信用するものよ。

お母さんは今晩お仕事で遅くなるからお父さんにお風呂に入れてもらいなさいというと、お母さん忙しいのだね、頑張ってといわれ、ドキンとした。5時過ぎに車で出て、スーパーに寄ってから須貝の家に着くと源二が迎えてくれた。

夕食まだでしょう・・わたし簡単に作るから・・。
材料を買ってきたのか・・。
たいしたものは出来ないけど・・・・。
いや、広子がもう作ってくれている・・・・。
ええ・・・・?
気にしなくていいさ・・・・ただもう少しすると広子は帰ってくる。
ええ・・・・?

広子の両親が急に伊豆の温泉に行くことになってね・・。
まあ・・・。
昼すぎに出て行って片づけを手伝っている時に、親たちの付き合っているグループから伊豆の温泉に行かないかと電話が入った。一組抜けたから急な話だが参加してくれたら助かると誘われたらしい。広子はその話を聞いていって来たらよいと言ったらしい。
キャンセル料があるからね・・・丁度良かったじゃないの。
親を送りだして、少ししたら帰るからと連絡が入った。
そうなの・・・・。

広子のいうことには、俺たちは二階を使って、広子は今夜1階の客室で過ごすから気にしないでいいという。
そんなこと・・・・。
俺と典子のことは広子が認めているからいいじゃないか・・。
いやよ。
どうして・・?
2階と1階よ・・・同じ家に広子さんがいるのに・・・・。 どれくらい離れていたら出来るのだ?
バカ・・・。
ダメか・・。
ダメに決まっているわ。

その時須貝の携帯が鳴った。ちょっと失礼と携帯を取り出し話し始めた。話を聞きながら頷いていた須貝が、いま典子さんが来られたと言うのが聞こえた。それからまた話を続けながら頷いていた。電話を終わって須貝が典子に言った。

30分もすると帰って来る。一緒に夕食をと言うがどうする・・?
いやだなあ・・なんだか広子さんに試されているみたい・・。
試している・・・・?
ご一緒できないというと角が立つし、一緒に食事するのはバツが悪いし・・。
いいだろう・・・もう何も気にしないで。
仕方がないわね・・。

あと30分ある・・膝に乗ってくれる?
前みたいに・・・キスしないで・・?
さあ、どうだろう。

須貝は典子を膝にのせて抱きしめた。典子は今夜十分時間があると思っていたのに・・といい、抱かれて須貝の胸に頭を置いた。須貝は大きく息をしながら典子の匂いを嗅いでいた。いい匂いだという。残念ね・・今日は・・といいながら仰向くと須貝がキスしてきた。

しばらく抱き合ってキスした。須貝はスカートの上から太腿をさすっていたが、中には侵入させなかった。そして典子を抱き直して正面に据えた。タイトスカートがずり上がり白い太腿が須貝の両側に突き出る格好になった。典子は気にしなかった。須貝は力を入れて典子を抱きしめた。その力は須貝の残念さが込められていると典子は思った。

しばらくねちっこい抱擁が続いた。1年前のおどおどしていた典子の姿はなかった。

すこし切ないね・・・。
すこしだけなの・・?
とがるなよ・・。

広子さんは私にお互いきょうだいだというのよ。
私の妹だとかいっていたな・・。
でもいいねえさんよ。
だったら泊っていってもいいだろう・・?
まだ言っているの? 今夜はダメよ。
今夜というのは何時か出来るのか・・?
そんな気もするけど・・・今夜はダメ。心の準備がないわ。
心の準備が必要か?
私、心に引っかかりがある時はダメなの・・・。
覗きに来るとでも思うのか?
まさか・・・そんなこと広子さんがするわけはないでしょう。
何が気になるのだ・・・。
バカ・・気にならないほうが異常よ。

きょうだいなんて言い方どこで覚えたのだろう・・?
源二が教えたのでしょう?
俺は知らなかった・・・。
別のひとに教えられたのかな・・・?
健吾君か?
健吾はそんなしゃれた言葉知らないよ。

今度いつ会える?
ちょっと予定がたたない・・新学期からまだ忙しさが続いているの。
やたらと研修があるとか・・。
そんなでもない・・でも結構忙しいの・・。
泊りの研修もあるらしいじゃないか。
それは7月から・・。
じゃあ・・何とか逢える?
でも、急な仕事も入るのよ。

さらにねちっこく抱き合った。須貝の手がブラジャーの上に置かれ、内側の乳首を探すようにブラジャーの上をなぞった。典子の胸の奥から香水が匂う。典子の首筋をキスする。逆らいもせず須貝のキスを受けた。急激に感情が高まって来たがどうすることもできない。

したくならないか?
したいに決まっているでしょう。
出来るのだぜ・・。
バカ、いやだと言ったでしょう。

また夢中で唇を吸い合い、舌を絡めていたら庭に車の音がした。

広子さんが帰ってきたわ。
うん・・しょうがない奴だな・・。
何を言っているの、自分の奥さんが帰って来たのに・・。
だからさ・・・・。
きっと今日しなければならない仕事があるのでしょう?今日は無理して時間を作ろうとしたのよ。
たいした仕事ではないはずだ。何か考えているのだ。

もう放して・・・。
いつ会える・・?
広子さんが来るじゃないの・・・放して。
いつ会える・・?
あとで連絡する・・。

広子が玄関からダイニングに入ってきた。

お邪魔します・・。
お邪魔しますだなんて・・。
泊ってくるはずだったけれど、両親が旅行に出かけたので・・こちらで残した仕事を思い出して帰って来たの・・。ごめんなさいね。
いそがしいのね・・。

たいした用事でもなかっただろうが・・?
急に思い出したものがあるのよ・・。
斎藤商事への請求書か・・?
そう・・あなたが仕上げろといっていたから・・。
明日まででなくてもよかっただろう・・。
あら、そうだったの・・。
気の利かない人だな・・。
ごめんなさいね・・ハハ・・・。

だから典子さん・・今夜は帰る・・。
あら・・・あなた達二階を使うのでしょう。私は一階の客室で仕事をしてからそこで寝るから・・。
そういう訳にいかないのだよ・・。
そう? ごめんね・・典子さん。

結局その日は夕食を3人でとり、8時過ぎに典子は須貝の家を出た。夕食の食卓では典子の学校のことが話題になった。最近の中学生のことを広子は聞きたがり、典子の話に爆笑が続いた。

広子さんの居る家で私と源二がセックスすることを勧めているけれど何が目的だろう。そんな状況でも気にしないで出来るかどうか私を試しているのだろうか。でも広子さんが居るのに須貝のベッドに行くなんて出来る訳がない。そう思いながら帰った。

ただいま・・。
あれ・・・?
今日は都合が悪いのだって・・。
梅雨に入る前に仕上げなければならないところが幾つかあるが・・そんなに仕事は立て込んではいないはずだが・・。
知らない・・。

もう夕食は健一とすんだよ。
向こうで少し食べたの・・・ビールでも飲むわ。
ヤケ酒か、じゃあ付きあおうか。
ありがとう・・、やさしいのね。
俺はいつでもやさしいだろう。
うん、そんな旦那をおいて外泊を企てるなんてね・・・。
悪い女だな。

健一は・・?
もう寝たよ。お母さんは忙しいのだねといいながら・・。
健一にも悪い母親ね・・。
そうだね。

どうしたらいいの・・・?
健一に対してか?
うん。
愛情をかけてやればいいよ。親は、母親でも父親でもだが、子供には絶対的に愛していることを分かってもらえばいいさ。

明日、山に連れて行こうか。あなたは・・?
だめだ、明日は仕事。
日曜日に・・・? 広子さんとでしょう・・?
仕事だ。

ごめん。
未来人が一人前に妬くのか・・・?
そうみたい。
古い脳の支配から解放されないのだ。

嫉妬は新しい脳に属すると思うけど・・・・。
ハハ・・確かに嫉妬は人間の歴史でごく最近のことだったな・・・。
そんなこと話したことがあったわね。
ああ、スワップするかどうかでもめた時に・・・懐かしいな。

健吾はもう私が向こうで泊っても妬かないの。
どうかな、典子と似たようなものだよ。
じゃあ、やっぱりいやなのだ。
いやだったら反対するよ。ただちょっとだけだ・・。

健吾は偉いね、自分を律していける人だから。
こんなの、偉いのかな・・?
偉いよ・・、尊敬する。
世間が聞いたら訳が分からないだろう。
そうでしょうね。

明日、健一と山か、それもいいな。あいつ山が好きらしいよ。いいことだ。
うん・・・高尾山にしようかな。まずは簡単な山からね・・・・。
山というほどでもないが・・・。
いい山よ。600mはあるし・・。
ケーブルカーだろう。
まだ新緑だと思うよ。

そうだろうなあ・・。麓までは車で行くか・・。
そうしようと思っているの。
じゃあ、もう寝るか。

健吾・・したい。・・・だめ?

ピンチヒッター?
そんな言葉いや・・健吾も好き。
どんなに・・?
健吾は太刀魚、あっさりして美味しい。須貝さんはクロムツ、こってりと脂があってとろける。
ハハ・・・うまい表現だな。今晩はクロムツを食べ損ねた訳だ。
そう、残念でした。

典子は風呂に入り、バスタオルで体をくるんだまま寝室に現れた。バスタオルを取って裸になり、横たわった典子の体は何時みても見とれるほどだった。湯上りで色づいた肌は、抱くとねばりつく感じがした。明日があるから1回だけお願い・・発散したいという。一回きりでいいのかと聞くと、思い切りして、健吾はそのままいってよ・・・と抱き付いてきた。湯の香のする体を抱きキスすると舌を絡めてきた。触るともう完全に潤っていた。

早いね・・。
あちらでするつもりだったからよ。
だからピンチヒッターだといっただろう・・・。
そんなこといわないで・・・・健吾。

上になる・・?
いや・・・普通がいいの。
うしろからもいいという人も居るけれど・・。
ワンワンスタイルは好きでないの。健吾とキスできないじゃない。しながらキスするのが好き。
注文の多い人だな。
何も注文していないよ・・普通でいいの。

合体すると典子はいつものルートを経て昇っていった。一回だけと言いながらその一回をとことん味わい尽くすように激しかった。健吾はこの典子の体を今夜社長が抱くはずだったと思うと興奮して力がみなぎってきた。健吾・・凄い・・といいながら典子は喘いだ。腰の使い方が以前と比べたら格段に上達し逞しさも生まれていた。一階だけと言いながら何度か頂点を極めて真っ赤な顔で・・健吾、健吾と呻く。頃合いを見ていいか・・と聞いたら来てという。

健吾がポルチオを圧迫しながら腰で揺すると・・アアすごいといって健吾にしがみついた。何時までもオルガスムスの状態が続くと思われるくらい典子は乱れた。健吾は典子がこんな姿で社長に抱かれているのかと何とも言えない気がして放出までの時間が伸びた。その間中典子は呻き続けた。健吾が気を遣ると一瞬典子の顔から血の気が引いたようになり体を反らせて果てた。

乳房の谷間に汗が光っていた。脱力したまま目をつぶり典子はしばらく動かなかった。健吾が乳房にキスすると、うっすらと眼を開けて、ああイイな、もっとしたいな・・・でもやっぱりダメ。健吾降りて・・・またしたくなるという。

まだする力はあるのか・・・・。
あるわよ・・でもとことんやると運転中に睡魔が来るのよ。私はやりすぎると眠くなるたちだから・・。
そうだな、健一を乗せて居眠り運転されたら大変だから。
そうよ。
典子はだんだんすごくなるな。
35歳・・・・女の盛り。一年前に嫌がる私に火をつけたのは誰よ・・。
悪かったな。
逆よ。感謝している。
一回だけだったら目が冴えて眠られないとか・・・・そんなことない?
ない・・お休み。

そういってすぐ眠った。抱いた体の弾力、体のしなり、上質のカシミヤに似たぬめりを持つ肌、健吾のものを咥えこんでうごめく膣、いまが盛りという典子の言葉は本当だと思う・・・社長が執心するはずだ。

昨年の8月の三日間の話を思い出した。あそこが始まりだった。そしてその年の秋に京都から大阪を巡る旅があった。それが典子に変化をもたらしたことは確かだ。言うことがはっきりしてきたし、行動も積極的になった。

独り立ち・・・どこかにまだ自分中心なところがある。肉体的には変化した。耐える力や、短時間で発散させる能力・・・・。1年間でこんなに変化するものか。眠っている典子を見ながら、これから先どんな変化を見せるのだろうかと思う。

〈高尾山〉
小田原から高尾山までは高速を使えば、1時間ほどだから、朝はゆっくりした。目覚めた健一は母親がいるので怪訝な顔をしていた。お母さん忙しいから帰れないといっていたでしょうという。仕事が早く済んだの、今日は健ちゃんと高尾山にでも行こうと思っているのだけれど・・・どうすると聞くと喜んだ。お父さんもいくのでしょうと、健吾に聞いていたが、一緒じゃないと聞いてちょっとガッカリした様子だったが口には出さなかった。

ケーブルカーの終点はまだ山の中ほどで、そこから歩く道になる。さすが5月の新緑で人混みは凄かったが、山は見事だった。参道を抜けて行くと天狗で有名な薬王院があり、そのことを話すと天狗が見られるかと聞く。見られるよと答えたら入りたいという。大天狗と小天狗の像があった。むかしの天狗らしいよというと、真剣に見ていた。やっぱり天狗には羽根があったんだ・・・と言う。

薬王院を抜けてさらに歩くと山頂だった。寄り道をしたので一時間以上かかった。高尾山の入り口で買ったおにぎりを食べてお茶を飲み、もみじ台や一丁平をめぐった。健一は富士山が見える、まだ雪がいっぱいだと喜んだ。下山はリフトを使った。展望が自由で健一はニコニコしていた。遠く東京の方角がかすんでいた。

リフトを降りて歩いて車の方に向かっている時、お父さんとまた釣りに行きたいという。そうね、今度はみんなでいこうというと、お母さんは忙しいでしょうという。その表情には母親は忙しい人で無理をいえないと考えている様子が窺える。ずっと自分が家で育て手をかけて来ていると思っていたが、父親と遊んだ記憶が強いらしい・・・。私は健一の圏外にいたのかと気になった。確かに職場のことで悩んでいたから、健一にはきちんと接することが出来ていなかったと思う。

健一に向き合ってきたのは健吾だった。 それに最近の自分の様子に何か違和感があったのだろうか・・須貝のことが分かるはずはないのに。黙って前を向いて歩く息子を見て急にいじらしさがこみ上げてきた。もっと寄り添ってやらねばと思う。

お父さんにお土産を買って行こうというので、三福まんじゅうを買って帰った。健吾は丁度帰ったところだと家にいた。健吾に飛びついてお土産を渡している。あんなにうちとけた姿は自分には示していない。初めて見る風景のような気がしてショックだった。

夕食後、健一は父親と高尾山の天狗の話をしていた。高尾山にはむかし天狗がいたのか、羽根があったから本当に空を飛んだのか、どこまで飛べたのか・・子供らしい質問を健吾に浴びせて真剣に聞いていた。子供の空想を壊さないように健吾は上手に対応していた。わたしならどう答えたのだろう、こんな接し方をしていないと思う。

〈健一のこと〉
その夜、典子は寝室で健吾に高尾山に行った時に健一について感じたことを話した。

オーバーだよ。でもそれは大事なところだろうなあ。よく気付いたな。
考えさせられたよ。
考えすぎだとは思うけど・・。
親子の関係が壊れているとは思っていないけど・・・・気になるの。
典子は真面目だな。
真面目でありたいと思っているくらいだと思うけれど・・。
それで何をしたいのだ・・・?

何をしたいというより、普通に健一と向かい合いたい。
そうか・・。
でもちょっとどうしてよいかわからない。
うん・・。
少なくとも、しばらくは健一を中心に考えたい。
その間、社長に逢わないつもりか?
しかたないと思う。
それは切ないだろう・・? 
切ないだなんて・・・私はあなたの妻よ。

でもそうだろう・・?
そうじゃないわ・・・・。

何とかしよう。
何かできるの?
健一を二人で見る時間を増やそう。
・・・ほんと?
二人で一緒の時間を作れば、親子三人の関係が出来る。

私も仲間の一人ね・・。
うん。
健吾、忙しくなり過ぎない?
なにが?
仕事と家庭・・。

何とかなる。それに典子が社長と関係を断てばこちらもやりにくいからね・・。
私に付きあう必要はないわ。あれから広子さんに逢っていないでしょう。
うん・・。
逢っておいでよ。
寛大だな・・。
あなたと同じよ。それに健吾は私たちのことずっと考えていてくれたから、そんな人に嫉妬したら罰が当たるよ。
罰が当たるか・・。典子にしては面白いことをいうのだな。

その夜典子は燃えた。健吾・・好き・・と譫言のように言いながら何度も天を突いて登った。人は気持ちの持ち方でセックスの感覚が変わる。典子は須貝を忘れて健吾に没頭した。

その日から健吾は典子の様子が変わったと感じていた。社長の影が典子の体から消えたように感じた。それはわずかな変化だが健吾にはわかる。少しかわいそうな気もするが、新婚の頃とは別だが、睦まじい二人に変って来たのはうれしいと思う。

〈広子の二度目の誘い〉
初夏が過ぎて梅雨入りした。須貝から時々電話があったが逢う話にはならなかった。遠出はむつかしいし、須貝の家では都合がつきにくいのである。暫く経ったある土曜の夕方、広子から電話があった。健吾はまだ帰宅しておらず、健一に絵本を読んでやっていたところだった。健ちゃんちょっとごめんといって、受話器を取った。

典子さん、いまいいの・・?
ええ。
源二がいやになったの・・?
まさか・・。
誘いを断ったとか・・。

いま、健一が難しいときだから、ちょっと頑張っているのよ。
健ちゃん元気?
元気よ、一緒に遊んでやる時間を作りたいの。
先生を始めたからね、大変ね・・。土日は付きっきりなの・・?
そうしたいけれど土日も仕事が入る時があるの。
そう・・、忙しいとは聞いていたけれどね・・・。そんな時はご両親のところに健ちゃんが行くの・・?
ええ、助かるの。
ご両親は喜んでいるでしょう?

私が子育てで手抜きしたからそのツケが回って来たのよ。
よく面倒を見ていたじゃない・・。
心がこもっていなかったの・・・反省しているのよ。
ふーん・・。

そんなこと健吾から聞いていないの・・? ねえさんは逢っているでしょう?
話を持ちかけてくれない。
どうして・・?
あの人も忙しそうだし・・。それで何かあるのかなと思って・・。

健吾にも協力頼んでいるから・・。
それで忙しいのね・・。
ねえさんには悪いわね・・・。

まさか・・。二人三脚で子育てはいいことよ。私も息子が小さいときのことを思い出すわ・・。
源二さん、協力してくれた・?
結構ね・・。
子育ての秘訣はないのかなあ・・。
よく一緒にいることと、話をするときはやさしく眼を見ながら話すのよ。それから・・よく聞いて、ほめてやることよ。私はそれしかやってこなかった・・。
わたしも心得ている積もりだけれど・・。

余裕がないかもしれないけど、源二に顔を見せてやって・・。
ええ・・。

ねえ、私が居てもうちで源二と逢ってもいいのよ。うちは広いのだから・・。
いやよ。
そう・・?
広子さんがいて出来る訳がないでしょう。
源二がまた私の居る時に典子さんを呼んでもいいかと聞いたから、典子さんがそれでいいなら全然問題ないとこたえたけれど・・・。
いやだ、あの人・・。
わたしそんなこと全然気にならないのよ。
わたしが気にするわよ。
じゃあできるだけいない日をつくるから・・。
そんなこと・・・・。

本当よ、私のことを全然気にしなくていいのに・・・まあいいか。じゃ子育てを頑張って・・・・応援しているから。
ありがとう。電話を頂いて・・。健吾には連絡取るように伝えるわ。

電話が終わって30分もしないうちに健吾が帰ってきた。

お帰りなさい。
ただいま。
梅雨になっても仕事があるの?
屋根が出来たところは雨でも仕事が出来る。数としては少なくなっているよ。
広子さんから電話があったの。
なんて・・・?

あなた、広子さんに逢ってないの・・?
ああ、ちょっと忙しくて・・。
逢いたいみたいだったよ。
そうか。
明日、出かけたら・・? 多分広子さんは何か考えているはずよ。
何かいったのか?
考えていてもそんなこという人じゃないわ。でも・・あの雰囲気はきっと考えているわ。
典子も結構人を読むようになったのか・・。
いままで人のこと考えなさ過ぎたと思うよ。

明日の計画はあるのか?
多分雨だし、健一と一日いることになるわ。晴れ間を見て買い物には一緒に行くけど。
健一とはうまくいっているか。
何とか・・。
確かに以前よりは君にまとわりついているな。

私は健一をきちんと見ていたと考えていたけれど、あまり見ていなかったことがわかったわ。
そんなことはないだろう。
平日は帰ってきてからと休みの日しか健一と接しないあなたの方がよく見ていたのよ。ちょっとショックだった。
大げさだろう・・。

健吾は素敵な人ね・・。
そんなに褒めるな。何か裏があるのか・・?
何も・・。広子さんに連絡したら・・・・。待っていると思うよ。

                   第4話  完


lov  小田原物語 第3話

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第3話
〈京都旅行〉
この年の夏は酷暑で印象付けられたがそれも瞬く間に過ぎていった。空は秋の雲になり、富士山の冠雪はそろそろ見えてもよい頃だが、例年よりは遅れている。公園のススキの穂が風に揺れて銀色に光っていた。典子はスーパーでの買い物を済ませて帰ってきたところだった。一か月前に集中豪雨や竜巻で大騒ぎしたことが嘘のように思われる。

嘘のようといえば、二か月前に典子が須貝と過ごした三日は、典子にとってそれが現実だとは思えないことの連続だった。知らなかった性の深さを教えられ、須貝にのめり込み、帰宅してからも典子はしばらくは戸惑いがあったが、今は健吾との夜が以前とは比べ物にならない程よくなり平穏な日々が続いている。

先日、健吾は健一を連れて西丹沢に渓流釣りに出かけた。渓流釣りといっても放流したものを釣るのだからそんなに難しいものではなかった。健一はニジマスを釣り上げた。興奮し、土産に持ち帰って典子が塩焼きにしたときは、夢中になって話をした。健一はこの町に来て本当に元気になったと思う。

庭の洗濯物を取り入れる時間がちょっと遅かったが、まだ太陽の匂いがするほどに乾燥した敷布をたたもうとバッと広げた時、体の芯にツンと抜けるような感覚が生じた。須貝の家で彼と二人でベッドメイクをしたことを思いだした。

いやだ、健吾が持ち込んだ話のせいだわ。

その話は昨夜健吾から伝えられた。社長はもうすぐ京都に仕事で出かける。その仕事が終わったら、夫婦で秋の京都見物でもしないかと広子さんを誘ったが、広子さんは都合のつかない用件を抱えていたので、典子さんと一緒に行けばよいと社長に勧めたというのだ。

どういう意味なの・・・。
典子が広子さんの代わりに行ったらという意味だけど。
あなた真面目にいっているの?
いやか?
いやとか・・・、そんな問題?
この前またこんなことがあってもいいような話だったし・・。

私と須貝さんが二人で・・・?
そうだけど・・。
二人でホテルに泊まれば、することはするのよ。
・・・・うん。
健吾はそれでいいの?

また社長に逢いたいような雰囲気だったじゃないか。この前から。
忘れなくていいといわれ、言ってみただけよ。
本音だったからだろう?
健吾との生活が基本だとその時話したでしょう。

そうか?
そうかじゃないよ。私たち何を話し合ったのよ。

じゃ、いやか?
何よ、言い出しておいて。
やっぱりいやじゃないのだ。

健吾、須貝さんは特別な人よ。
それでいいと言っただろう。
どうなるか考えたの?一緒に旅行したりして・・。

どうなるかって?
あの人と寝たら・・・。
またおかしくなるのか?

この前こと忘れた訳じゃないでしょう。
10日間以上もぼんやりして・・。
今度はそれですまないかもしれないよ。
俺と別れかねないといのか?

この前言ったけど、私と須貝さんとが一緒になることはあり得ないの・・でも・・。
でも・・? 俺たちだけが別れることになるということか?
そうなるかもしれないよ。
そうなりたいのか・・?
なりたいと思う訳ないでしょう。
だったら大丈夫だ。

広子さんは何と?
典子さんが来年復職すると、もうこんな機会はなかなか作れないという。
何を考えているのかしら。
また何か考えているのだろう。

健吾と一緒になることを考えているの・・・。
考えていない。
前にそんな話をしたでしょう・・。
面白半分の作り話。
・・・・だと思ったけれど。

社長に同行するのは嫌か?
わたしにそれを勧めているの?
いやかどうかを聞いているのだけれど。
いやな訳ないでしょう。

・・・だよな。
生活をきちんとしようという話は・・。
でも・・・・時々は・・・。
いいというの? まだ二か月前のことよ。
そうだったな・・。

健吾・・・何か裏があるの・・?
今度はない。

須貝さんに私がご一緒した時、健吾はどうする?
何もしないよ。
広子さんとは・・。
都合のつけられない用事とは、友達と前々から計画していた集まりだって・・。
じゃあ、わたし達だけ?
うん。

それでいいの?
いいよ。
ほんとなの・・?
ちょっとな・・・。
だったら、やめよう。健吾。
いや・・いいから。
・・・・いいの?

〈健吾と典子〉
話を切り出したら、否定的なそぶりを見せながら、心の中は乗り気だと健吾は判断した。それならそれでいい。典子から別れることになりかねないといわれた時は少し考えたがそれはないだろう。

典子にも迷いがあった。行くべきではないと思いながら、須貝には逢いたいと思う。二人の時間が持てるなら、あの時に戻れる。あれは健吾との生活では到達できない目のくらむような世界だ。いま健吾との夜も楽しいが須貝とは違う。典子の下腹部を中心に激しい渦を感じ体が揺れる思いがした。

その夜、風呂からあがった典子の体を健吾が抱いた。昨夜典子の関西行が決まったので健吾の気分は普段とすこし違っていた。同行すれば典子と社長がホテルに泊まると思うと心が騒いだ。

典子が好きなクンニを執拗に続けた。典子の腹の筋肉が時々緊縮し、声を殺して体をくねらせた。やがて腰を反りあげて小さく呻いて落ちた。典子は気持ちが高揚し、健吾にもしようかという。健吾はフェラが好きではない。抱きたいという。

じゃあして・・と紅い顔で体を開く。健吾が割って入り繋がってから互いにキスし合う。典子は健吾の舌が乳房や首筋を這いまわるのを感じながら、やがてやってくる頂点に向かって眼を閉じた。

股間が痺れてくると、頂上への道は湧きあがるようにやってくる。来ると感じた時から自然に体が動く。その体を健吾が抑え込む。典子は健吾に抱き付いていた手を伸ばして腋下を開放する。健吾がそこを舌で捏ねる。典子は枕の端をきつく掴み、唸りながら登りつめる。

二週間前にミレーナを装着した。妊娠を心配しないで出来る交接はのびやかになった。典子はポルチオを攻められると深く感じることを健吾に伝えたので、健吾は登りつめたあとでも、繋がったままポルチオに圧力をかけた。連続して二度目の頂点がやってきた。その時典子は光る・・・と言った。反応を見ながら、いってもいいかと健吾が言う。来て、といって典子は脚を絡めて腰を擦り付け強く抱き付く。健吾は深く挿入して腰をゆする。のけぞり、口をとがらせた典子の姿を確認してから健吾は気を遣る。

その夜は息がおさまってきても健吾は典子を放さなかった。横抱きにしながら話しかけた。汗ばんだ体に健吾の息が心地よく感じる。

楽しみか?
旅行のこと?
そうだよ。
・・・期待していないといえば嘘になるわね。
やっぱり・・。

健吾、念を押すようだけれど、いいのね?
今更ダメだとは言えないだろう。
帰ってきてもいじめないでよ・・・。
そんなことするか。 でもいいなあ・・。
なにが?
女の方が深いみたい・・。
体の感覚・・?健吾だっていくとき震えているよ・・。

そうだけど、典子の反応は最近よくなってきた・・。
須貝さんとだったら・・もっとと想像する?
うん。
じゃあ、やめようか・・。
ほんとにやめるか・・?
いやよ。
・・・だろう?

健吾は典子にキスしながら舌を差し込んだ。典子もそれに応じた。健吾は典子の乳房を揉み、汗の引かない典子の体を抱きしめた。

いい気持。強く抱いて・・。
・・・・まだしたい?
いいの?
いいよ。
じゃあ、して・・・・。

健吾は興奮していた。典子が社長に抱かれることが原因だと自分ではわかっていた。典子もいつになく興奮している様子だった。社長との旅行がその原因だと思うと、健吾の心になんとなく典子をいじめたい気持ちが起きた。健吾は執拗だった。再び典子は二度押し上げられて震えていたが、まだ終わりそうにない健吾を感じて、あぁ・・・健吾・・・もう堪忍という。もうだめかと聞くと体がバラバラになりそう・・・と悲鳴を上げた。

健吾は射精しないままに典子を離した。息が止まりそうだったと典子は充血した眼を健吾に向けた。

・・・ねえ、どうしたの。
どうしたって?
今夜・・・違う。

いやか?
いやな訳ないでしょう。

そういったが健吾との行為は須貝とは違う。須貝には執拗さがないのに抱かれると体が溶けるまでになる。くたくたになった後の感覚が全然違うと思う。

典子が社長とすると思うと・・・。
嫉妬するの・・?
そりゃあなぁ・・・しないといえば嘘になる。
いじめたくなったでしょう・・健吾・・私を。

言い当てられて一瞬戸惑っていると、ごめんねと典子が小さくいう。いや、いい旅行になるといいねと誤魔化した。

〈京都へ〉
須貝は福知山から篠山のあたりを廻って、古民家の状況を見て回ることにしていた。祖父の代から知り合っている関西の同業者の口添えがあった。典子は須貝の仕事が相手との時間調整で数日オフの日が出るので、その時京都で落ち合う手はずになった。

10月の中旬である。京都の紅葉にはひと月早い。そのほうが観光客で混みあうこともない。須貝は京都のあと、大阪に回って日本の近代建築の草分け的な建物群を典子に見せたいと思っていた。開発のすすむ中之島地区に残された由緒ある建築群である。

典子は出発の前日、また母親に関西で大学の同窓会があるからと健一を頼んだら、何時もの通り喜んで引き受けてくれた。健一を送り届けて戻ると健吾が帰宅していた。またお母さんに嘘ついたのかとニヤリと笑う。ただいま、夕飯準備するからねと言って、台所に立つ。健吾が寄って来た。向き合うとウエストに手を置いて典子を見た。典子は抱き付いてキスした。

明日だな。
うん・・・。
なんとなく取り残された感じもする。
そういってくれるの・・うれしい。

でも・・行くのだな。
ごめんね。

いいさ、俺が持ち込んだことだから。
ありがとう。・・健吾好き。
・・・・。

埋め合わせするから。
埋められるのはいつも女の方だよ・・・・。
いやだ、エッチ。

その晩健吾は求めなかった。

いいの?
いいよ。
あの人に遠慮しているの?
そう見えるか?

抱いて。
今日はお休み・・・。
健吾・・・。

典子は抱き付いてきた。

おいダメだ、その気になるよ。
なってよ。・・・健吾としたい。
いや、今夜は遠慮する。
変なの・・。

朝は8時半過ぎのこだまだった。京都には11時半ごろに着く。東京発の新幹線は沿線の地方駅では結構不便である。小田原から昼ごろ京都に着く新幹線は一つしかない。健吾は典子を西口まで送って行った。

薄い茶色の膝丈スカートにネイビーブルーのプルオーバ―、それに同色のカーディガンを羽織った。薄手のキャメルのスカーフを巻いてアクセントをつけた。須貝を意識して渋めの作りにしている。旅行に必要なものはキャリーバッグに収めていた。

ありがとう、行ってくるね。典子は健吾との視線を避けている感じがした。健吾は、この旅行で典子が須貝へ傾斜していく不安が頭をかすめたが、大丈夫だろう・・と思った

典子はホームに向かいながら二か月前のことを思いだしていた。あなたを広子さんから盗ろうかなと須貝に気持ちを漏らしたことである。あの時は本気だった。須貝からは可愛い泥棒さんですかとかわされた。大丈夫だと思いながら、また会えば・・という不安はあった。しかし健吾と別れることはないと思っていた。それだけは確信的な気持ちだった。だから行く気になったともいえるのだと、自分の行動を説明していた。

典子には3時間の旅が長く感じられた。ようやくこだまが東山トンネルを抜けた。もう京都だと思うと典子は落ち着かずキャリーバッグを引いて席を離れた。ホームに停車するまでの時間がもどかしい感じだった。

ホームに降り立つと須貝が目の前に居た。号車番号をメールしていた。よく来てくれたと言う須貝にお久しぶりですと挨拶をする。須貝はキャリーバッグを典子から受けとり話しながら出口に向かった。

まだ紅葉には1か月も間があるのだが、それでもいい季節になった。そうですね暑くもなく、寒くもない、いい季節で・・・。

お仕事は・・・?
うん、数物件を見て回ることが出来て、一ついい話がまとまりそうだ。
古い民家だとか・・。
最近、欲しい人が出て来てね。
移設?
そう。お金持ちの人が・・。別荘としてね。
そうですか。
広い宅地の中に移設する人も居る・・。
私たちには関係ない話ね・・。

いま私が関係している移設建設は確かに庶民には関係ない話です。でも京都市内などでは町屋を改造して古民家の新しい使い方を始めている若い人たちも居ます。そういう人たちの動きは注目していますよ。
どんな人たち・・?
染色とか・・織物・・いろいろの手仕事に係る人たちです。
それには須貝さんは関わらない・・・?

ええ・・今のところは係りません。京都には古民家を手掛けている同業者がいますから・・・。ところで、お昼に近いけれど。
でもあまりお腹が空いていない・・・・。
湯豆腐でもいかがですか?
はい・・。

京都駅前でタクシーを拾い、南禅寺に向かった。南禅寺は京都市左京区、東山の麓にあり、臨済宗の総本山で、京都駅から車でさほど離れてはいない。山門に近いところで車を降りて、鹿ケ谷通りを歩いた。湯豆腐の店はすぐだった。

入り口のすぐ右手に受付がある。まだ客はそんなに多くはない。受付を済まして待っているとすぐに通された。1階の座敷で、そこから中庭がすぐ近くに見えた。

淀んだ池があり、楓の木が上を覆っているがまだ紅葉はしていない。須貝は子供の頃に親父に連れられてきた時その池のほとりの縁台で食べたことがあるという。それ以来ですか・・。いやその後も何度か、仕事でこちらに来たときに・・・。

そんな話をしているところへ注文した品が運ばれてきた。簡単に料理の説明を受けたが、仲居さんの話はなんとなく機械的だった。ここは昔からそうです。客が多いからでしょう。湯豆腐の鍋のほかに胡麻豆腐、豆腐の味噌田楽、天ぷら、それにご飯がお櫃に入れられて並んでいた。

典子は沖縄の苦汁を使ったという豆腐がおいしかったし、味噌田楽も胡麻豆腐もよかった。天ぷらはいまいちの感じだった。須貝はビールをすすめたが、典子は遠慮した。徐々にお客が増えてきた。おいしかったと典子が言う。じゃあ出ましょうかと店を出た。

店を出ると目の前は南禅寺の境内である。まだ紅葉していない楓の葉が陽の光りに透けてきれいだった。遠くに見上げるような大きな門がある。三門ですと須貝が言う。歌舞伎の「三門」は石川五右衛門のセリフ・・絶景かな・・と言うの?そう、この三門からの話ですよ。

圧倒される建造物だった。創建は13世紀の末で、この建物は17世紀のはじめのもので、あの大きな列柱がいいと須貝が説明する。上からの眺めはよさそうですね。・・京都の街がいい景色ですよ。

〈須貝の建築談義〉
水路閣にいきませんか。ご存知でしょう?
いえ、知りません。
明治の中頃に作られた京都疏水の水路の一部です。ここから遠くはありません。

見事なアーチ形をしたレンガ造りの建造物だった。高さ10メートルもあろうか、境内の木々の間を貫いて作られていた。建設当時は古刹の景観を台無しにすると反対があったそうですが、いまはこれが趣を与えているようで面白いと須貝が言う。素敵な水路ですね。まだ現役ですよ。

観光客が思い思いの角度から水路閣を写していた。水の流れが見えるところまで足を運んだ。そんなに水量があるとは見えなかったが、これが琵琶湖から引かれている水だと思うと感慨深い。大学を卒業して教員になった年の夏を思い出した。

健吾と結婚する前に付き合っていた人が京都大学のドクターコースに進んだので、琵琶湖に旅したことがあった。近江八幡で水郷巡りの船に乗った。葦の茂みを船が進んでいくと、カイツブリが船に沿うように現れ、ポッと目の前に浮かび、船の近くに来すぎて、驚くようにあわてて水に潜っていった。のどかな風景を二人で見ていた・・・、あの湖の水がここまで流れて来ている・・・。もう10年以上前のことだった。

水路閣を見たあとインクラインに足を運んだ。明治時代から昭和にかけて淀川と琵琶湖を結んだ海運の舞台がここだった。予想を超える大きな構造物だ。

淀川を登ってきた三十石船が台車に乗せられて荷物を積んだままここで引き上げられ、琵琶湖に向かう水路トンネルに吸い込まれていく様子に当時の人々は喝采を送ったそうですよ。ここは当時の京都観光の目玉だった。

どうやって船を乗せた台車を引っ張ったのかしら?勾配が結構急ね。

電力です。疎水の水を利用して発電しています。あの時代に鉱山の排水に使う自家用の小さな発電機が世界中で2、3か所あっただけで、一般事業に使われたのは世界初ですよ。これは素晴らしい発案でした

疎水事業が大変だったのはトンネル工事ですが、明治の23年に完成しています。疎水計画はそのもっと前で、京都市民の声で生まれた。それを京都府知事が取り上げた。そんなところも明治の息吹が感じられますね。

その工事の設計から工事全体の総責任が東京の工部大学校を卒業したばかりの若者、田辺朔朗だったのもすごいでしょう。当時、日本人では無理といわれた事業でした。田辺に任せた北垣という京都知事も度胸のある人ですよ。

私は大学ゼミで建造物としての水路閣の美的問題が議論になった時に工事そのものの概要を知ったのですが、すごい話だと思いましたよ。水道事業なのに何故あのような綺麗な水路にしたかということ・・・、古刹の中に水路を通すための配慮だったそうですよ。考えさせられますね。今の東京の醜悪な高速道路などを見ていると・・。

熱っぽく語る須貝の話に、昔の彼を思い出した。まるで話し方が同じだった。話を始めたら止まらない・・・イメージが須貝と似ていた。彼は学部を出て大学院は京都に行き、大学に残った人だった。彼と一緒になっていたら健吾とも須貝とも会うこともなかった・・・・。研究には情熱を燃やしたが、ベッドではぎこちない人だった・・・。水郷をめぐったあと二人は堅田のホテルに宿泊した。結婚するつもりだった。

しかしその後いろいろのいきさつがあり、彼の外国留学を契機に二人の関係は終わった・・。でもあの建築への情熱・・・豊富な知識に裏打ちされた話題・・古い時代からの建築にまつわる話を門外漢の典子にも理解できるように話してくれて、それを感激しながら聞いた記憶が典子には鮮明に残っている。須貝の横顔を見ながら、あの人と別れたのは何故だった・・それでよかったのか・・と思っていた。

歳の差のある須貝と典子に対して周囲の人々からの視線はない。須貝に寄り添い、ここはいいところ、昔と現代が同居しているみたいという。京都にはそんなところが多い、それが魅力ですね・・。

須貝が時計を見た。

もう二時を廻りました。大分歩きましたが疲れませんか?
こんな素敵なところ・・・大好きです。

ホテルに行きましょうか。チェックインが出来る時間ですが。
ええ・・。
タクシーでいくほどでもありませんから、歩きましょう。
はい・・。

〈ホテル〉
須貝はすでに預けてあった荷物を受け取って、チェックインのサインをした。須貝は自分の名前に並べて典子の名前を書いたが典子の名字は書かなかった。部屋は11階。右手に東山、左手の遠くに西山が、正面のはるか遠くには北山かすんで見えた。窓から京都の町が北に向かって広がっていた。

典子がカーディガンをハンガーにかけて須貝を見た。お互いに近づいて、抱き合った。見つめ合って唇を重ねた。典子は力が抜けそうに感じたが須貝が支えていた。

よく来てくれた。
逢いたかった。
断られるかと・・・。
断るわけがないわ・・・。

須貝がブルゾンを脱いだ。それを典子がクローゼットに仕舞った。そしてまた抱き合ってキスを続けた。首筋を須貝の唇が這った時に典子はシャワーを浴びたいといった。待ちきれない思いが言葉になった。

先に典子が浴室に入った。鏡を見るとやはり少し太ったと思う。乳房は豊かに重量感が出ているし、ウエストの絞りはまだ問題ない。シャワーの水を弾いて光る体を自分でもきれいだと見ていると、須貝が入ってきた。須貝に向けてシャワーの水をかけると笑いながら典子を抱いた。大きくなり始めたペニスを腹に感じながらキスし合った。ボディーソープを手に取り須貝の体に塗り、手で撫でまわしながら須貝の体を洗った。お互いに流し合ってまた抱き合いキスした。

先にブースを出て鏡に向かい典子は髪に弾いた水を鏡に向かって拭いていると、須貝も出てきた。鏡の中の典子に微笑んで、きれいだと言う。振り向いて典子は須貝に抱き付いてキスした。典子のお尻のあたりを撫でながら早くおいでといってベッドに向かった。

バスタオルを巻いて、ベッドで待っている須貝に近づくと抱きしめられて倒れ込んだ。バスタオルを取られて裸になった。典子はこれから始まることの結果を考えて身震いがした。須貝は典子をしばらく見つめていたが、額にキスしてから抱きしめた。典子も須貝の背中に腕を伸ばして抱き付いた。しばらく無言でキスを続けた。

綺麗になった・・・。
・・・そう?
一段と官能的な体になった。
どんな体のことなの?
この体のことさ。張りがあって、瑞々しい。
太ったのよ・・・。
ミロのヴィーナスだ。
あら・・あんなにお尻が大きくなったの?
全体の感じ・・・私にはこの世のものとは思えない。
大げさよ・・・。

白く輝く体だった。乳房は仰臥しても崩れず、湿り気を帯びて盛り上がっている。それを宝石のようだという須貝に、典子は微笑みながら・・・今日はあなたのものよという。須貝は仰臥した典子の体を両手で肩から脇腹、ヒップ、太腿と順にゆっくりと手を滑らせていく。顔が草叢の上に来たときにそこに顔をうずめた。

窓にはレースのカーテンが引かれただけだった。明るい室内のベッドの上で二つの裸体が長く繋がった。女の股間に男の顔があり、女は男の頭に手を置いて顎を突き出していた。しばらくすると女の体が揺れて女の両脚が曲がった。くぐもった声がして腹筋が震えた。男が伸びあがって女の上に被さり互いにキスをかわし始めた。

須貝は典子の体は二か月まえと比べて丸みを帯びてきたと思った。充実した肉感が伝わってくる体だった。健吾との生活が充実してきたのだろうと思う。そのことを伝えると健吾のことは今日はいわないでと典子がいい、体勢を変えた。

典子は片脚を須貝に絡ませて乗り上げるように位置を取り、須貝にキスしていた。須貝の右手は典子の腰を撫で、左手で乳房を支えながら乳首を噛んでいた。ベッドからは京都の空が見える。二か月前に須貝の家からの風景を思い出した。あの時はカーテンも引かずに夏の光りがまぶしいベッドの上で抱きあった。

乳房が噛まれるとジンとした感覚が走る。典子が須貝の喉元から耳の方に唇を動かす。長い間逢えなかった二人が久しぶりの逢瀬を楽しむ光景だった。張りのある乳房の頂点にピンク色に変化してきた乳首が固く立ち上がっていた。

やがて須貝が上になり仰臥した典子の体に唇を這わせた。典子は眼を閉じて口をわずかに開いている。典子の頭の中に健吾はもういなかった。典子は須貝と睦んだ最後の感覚を思い出そうとしていた。あそこに到達したい、頭が真っ白になり体が溶けてしまう極致に到達したかった。時々位置を変えながら絡み合う時間が続く。白い乳房に透けて見えていた青い静脈は消え、全体が赤みを帯びている。

欲しい・・。
来て・・・。

あらためて典子を仰臥させ、開いた両脚を抱えるようにして挿入した。繋がると典子はため息をつきながら、ああ・・やっぱり・・あなただ・・とつぶやく。女にとってペニスの侵入は男の侵入そのものであり、体全体で一つになった感じがする。須貝が乳房にキスし、乳首を噛むと典子は・・思いだした・・と呻く。二か月前のベッドが再現され、空白の時が消えた。

典子の顔に赤みがさしてきた。首筋から鎖骨のあたり、また乳房へと須貝の唇が覆っていく。ペニスが間断なく動き、膣が緊張したり弛緩したりする。健吾の小田原で別れた時のさびしそうな顔が突然浮かんだ。私一人でこんな楽しい思いをするなんて・・・と思ったが、そんな気持ちは乳頭に須貝の唇を感じると消えた。ああ、イイ。

両脚を須貝の脚に掛け、密着した。須貝は二か月前とは違う典子の体の動きを感じた。身体の動きがスムーズで須貝の動きにうまく対応した。濡れた膣は須貝を咥え、よく絞まって吸い付いてきた。

これならあとは自然に登りゆくだけである。記憶を呼び起こして典子の急所を突いた。ペニスを膣の上側をこするように出し入れすると反応があった。

そこ・・・。
典子さん・・。
典子といって・・・。

絡み合い、キスし合い、体を撫でられながら須貝の腰の運動に合わせて動いた。目の前に須貝の顔があり、一定の速度で腰の動きが続く。典子はこのまま頂上にいけることが分かっていた。股間のしびれが膨らんできた。ペニスが心地よく体の芯を叩いている。ああ、イイ。

二か月前、典子は須貝に抱かれて女の悦びを教えられた。最後の交合では意識が飛ぶほどの高みの中で悶えた。その高みにこれから近づいていくと期待が膨らむ・・。

来る・・・。須貝の耳元に口をつけて小さな声でいった。そして水があふれ出すようにそれが訪れた。盛り上がった感覚が股間から体全体に広がり、そのまま頂上に向かった。スムーズに頂点に移行した。唸りながら反り返る典子を須貝が抱きしめた。のびやかに第一波に乗った。

休む必要はないことを須貝は分かっていた。そのまま続けるとやがて顔を左右に振りながら、たまんないという。乳房がさらに尖って、赤みを帯びた典子の顔が引きつるように変化した。

須貝をもう見ていない。目をつぶって眉間にしわを寄せている。大きく口を開け呼吸し始めた。股間のしびれが全身に広がった。もうどこという場所ではなく体のあらゆるところがうごめいている感じがした。

うねる典子の裸体を抱いて腰を使うと、また新しい頂点に向かったことがわかった。このままでいいだろうと抽送を続けた。大きな波が押し寄せ、それに呑み込まれるように典子はうねった。顔をひきつらせてうめき声をあげた。震える典子の体を須貝は抱きしめて典子を頂上に送った。やや血の気が引いた顔がオルガスムスの中で左右に振られていた。

引き攣っていた顔の中からもとの典子の顔が現れてきた。典子は覗き込む須貝の顔が見えた時、恥ずかしそうに言った。

変な顔をしていたでしょう。
いや・・・・。
はずかしい・・。

私は典子さんに夢中で・・。
あなたは冷静だった・・・。
そう思えた?
だって・・・。

典子は須貝が放出していないことを言っていた。

ねえ、典子といって・・。
あなたは健吾君の奥さんだよ・・。
こんなことしながらでも・・・?

典子は笑い出した。それから健吾が昨夜自分としなかった話をした。

抱いてといったのに。遠慮しておくとか・・・。
・・・なんだろうね。
あなたに遠慮するだとか・・。
変だね、自分の奥さんに。
あなたも変なのよ。こうして私を抱いていながら・・。

健吾君とはうまくいっているのだ。
ええ・・・。
よかった。

あなたがそうさせてくれたのよ・・・。
そう言ってくれるとうれしい。
今は源二が好き・・・。
おやおや。
典子と呼んで・・・。

〈もう一度〉
須貝は黙って典子の口を唇でふさいだ。舌を差し込むと典子は応じてきた。また長いキスが始まった。典子は須貝の体に脚をかけて、体を乗り上げるように須貝にキスを続けた。須貝は典子が動きやすいように助けながら、典子の体を下から舐めまわした。手慣れていると典子は感じていた。

ミレーナつけているの。
うん・・・広子から聞いた。
広子さんのお医者さんのところへ・・。・・・一緒に行ってくれたの。
うん・・・。

源二が典子の上に体を移した。両脚を立てて開いた典子の体に須貝が挿入した。その腰がうねり始めた。典子のくぐもった声が腰のリズムに合わせて聞こえる。

今度は・・・ね。
うん・・・・。
あなたのものを感じたいの。

ゆっくりとした腰の動きが続く。典子の手が須貝の背中を抱きしめた。須貝の顔が典子の顔の横にあり、時々耳のあたりにキスしていた。首筋にキスされるとそこから子宮につながる道があるように思えた。なんでこんなにいいのと聞くと久しぶりだからだろうと須貝はいう。

違うの・・あなたが好きだから・・と言って典子は須貝の顔を両手で挟んで自分の方に向け須貝の口を吸った。須貝の舌を引き出すように吸うときもあった。須貝はリズムを崩さず腰をくねらせた。

典子は出来るだけゆっくり須貝を感じていたいと思っていたが、体の内部から噴き上がってくる感覚が大きくなってきた。あなた・・・また来る、と切れ切れに言う典子の顔を見ていた須貝が動きを緩めた。

思い出すのだよ・・。
・・・・ええ。

うっすらと浮いた典子の額の汗を須貝が舐め取った。頸に典子が吸いついて須貝の体を抱きしめた。そしてまた見つめ合い舌を絡めてキスした。しばらく興奮を抑えるようにつながったままキスし合った。時々須貝の腰が動くだけの静かな交合だった。

須貝の動きが少し変わった。典子が悶える。しばらく耐えていたがこのままいかせてと典子が言う。須貝は黙って抽送を繰り返した。典子の股間の感覚が膨れ上がってきた。もう止めることは出来そうにない。イク・・・と頭を反りかえして典子の爆発が起きた。イイ、イイと呻きながら震えた。

須貝はまだ冷静だった。頭を左右に振り紅潮した顔面の典子を抱きしめて、抽送を繰り返す。我慢する50歳の男にまだ最後は訪れない。典子は引き続く高揚した感覚の中で悶えた。須貝とではなんでこんなにいいのだろうと思う。体が連続したオルガスムスで浮揚し、体全体が須貝と一体になっている感じがした。

やがてとどめの抽送が始まった。須貝は近づいたことを典子に告げた。連続するオルガスムスの中で意識を持ちこたえていた典子は来て、来て、と叫んだ。須貝がポルチオにペニスを押し付けて静止した。アッ、あのタイミングだと察した典子がギィと呻きながら須貝の胸に顔を押し付け、腰を振り自らを解き放った。

それに合わせて須貝が放った。精液が噴き出した感覚を受けとり、別の快感が襲ってきた。典子の頭の中に霧がかかり、体がとろけたみたいだった。ああ、これだ、二か月前のフィニッシュをはっきりと思い出した。

体中が痺れていた。高揚した感覚はなかなか引いて行かない。ああ幸せと四肢を絡めて強く須貝に抱き付く。須貝は黙って抱き返してくるだけだった。体が溶けたように心地よかった。

あなた・・。
・・・・。
来てよかった。
うん・・・時間を作ってよかったと思う。
しあわせ・・。
うん・・。

〈夢〉
先ほどまでどろどろのセックスでもう動けないというと、じゃあ僕が夕飯を作ると言って、汗びっしょりの裸で転がっている典子を残して須貝はベッドを降りた。台所の流しの方から須貝がこちらを見て笑った。その時ツーッと彼のものが太腿の付け根を流れる感覚があった。いやだ、止めようと股間に手をやろうとしたが動けない。どうしたのと須貝が近寄ってくる。来ないでと言ったが須貝に抱きしめられた。いやだ、汗びっしょりだからと須貝を押しのけようとして目が覚めた。

典子は須貝の胸の中で眠りに落ちていたのだった。もがいている自分に気が付いた。

あっ・・・夢。
そうみたい。
私、寝ていたの?
うん、30分ほどかな。
夢を見ちゃった。
いい夢だった?
・・・・・・。

どんな夢?
・・・・。
エッチな夢だった?
知らない・・・。

須貝の腰に手を遣り撫でながら、自分の股間を素早く触ってみた。まだ彼のものは体の中に残っているのだと安心した。バスタオルを腰の下に敷いていたし・・・。安心して須貝に抱き付いて舌を絡めた。しばらく余韻を楽しむように睦みあった。

古い民家を東京に移すの・・?
ええ、丹沢の麓に別荘を作りたい人がいてね・・。
費用は・・・?
実際に解体しながら調べていくから、まだはっきりとは算出できていない。
新築と比べて・・?
前の持ち主への謝礼、材の洗滌、運搬、新しい設計図に従ったホゾづくり、組み立て、仕上げなど合算すれば、新築の2~3倍はかかる。屋根を茅葺にするにしても檜皮葺にするにしても材料の調達が難しくて・・。場所によっては建築法で出来ない場合もある。
2~3倍・・? 信じられない。
ですよね。でも風格のある家だったから良いものが出来る・・・。

典子、住んでみたい・・。
誰と?
あなたと・・・。
健吾君はどうするの・・?
もう・・夢を見ているのよ、現実に引き戻さないで・・。

現実と言えば私には風格のる古民家は買えないですよ。
高すぎる・・?
そう・・とても無理・・資力のある人とはどう・・?
資力のあるひとならお爺さんでしょう。
そうでもないですよ。金持ちの二世、三世、ベンチャーで当てた人など若くてお金持ちも結構いますよ。
気持ちワル・・。

須貝さんは別荘持ちたいと思わない?
小さな新築ならね・・・。
新築が安いのね・・。
建材を選べば・・それに田舎はいま頃土地も安いし。
出来たらいいな・・・。

そこへ週末に健吾君も一緒に来てみる?
いいな・・。
同じ部屋で・・4人で・・。
いやよ、健吾の前ではイヤ。
・・・・・・。

なに笑っているの・・・。
食事を・・と思っていたけど。
私をからかって・・どうせ私はエッチよ。

〈須貝の心の動き〉
エッチの人は大好きさ、と須貝が抱きしめた。ちょっとキスで応じたが、典子はシャワーを浴びたいという。そうしますかと須貝が起き上がろうとすると、私が先にといって典子はベッドを降りた。須貝は典子の後姿を見送ったあと窓からの景色に眼を転じた。

東山は夕日に輝いていた。西山にかかる灰色の雲の端が金色に輝き明日も天気が続くようだった。室内に眼を戻したとき浴室に消える典子の流れるような腰の線を思い出した。重量感があり、くびれたウエストから腰への線が流れるようで見事だった。典子との関係が生まれたのがまだ信じられない、奇跡のようだと思う。

もういいだろうと起き上がり浴室のドアを開けた。典子はシャワーを止めて、鏡の前に立ち、髪にタオルを押し当ていた。須貝は交替してシャワーを使い、先に浴室を出た。しばらくすると典子がお待たせとバスタオルを巻いてベッドで待っている須貝に寄り添いバスタオルをはずした。

四肢を長く延ばした典子の肌は夕暮れの光りの中で赤みを帯びて幻想的だった。須貝は愛おしそうに乳首を口に含み、しばらく典子の体に戯れた。

夕食はどうしよう。
なんとなく外はおっくうね。
ホテルのレストランにしようか?
ええ・・。

ここの鉄板焼はおいしいとの評判だが・・・。焼き野菜もある。
昼は湯豆腐だったし・・いいですね。
もう少しして行こうか。

レストランに予約を入れて、時間を確認し、それまでの時を惜しむかのように抱き合った。さっき果てたばかりの須貝のものはもう復活していた。典子はそれを握って、私を狂わせるのはこの子ねと笑った。二か月前の典子が信じられないくらい須貝に馴染んでいた。

静かに抱き合っていても須貝は昂ぶっていた。広子とは全然違う典子の体に酔った。肉の感触が違う。須貝に反発するかと思うほど弾力があるかと思えば、次の瞬間に須貝の体に溶け込んでくる。次元の違う体だと思う。高まる興奮の中で須貝は典子の体を抱きしめ、典子はその抱擁に抗うように須貝の体にキスしたり軽く噛んだりしながら時を過ごした。

やがて予約の時間になった。須貝はワイシャツにセータを着た。典子はブラとショーツだけの体にそのまま茶渋色の少しゆったりしたワンピースを着けた。典子が須貝の方に体をまわした時、体がワンピースとは独立に動き、須貝はその下の裸身が動くように見えた。行こうと廊下にでた。

エレベーターで3階に降りた。カウンター席に座ると料理人が注文を受けていますと、さっそくビーフを焼き始めた。須貝がおいしそうだねと微笑むと料理人が、これは自慢の京都牛です、お楽しみくださいと言う。上品な匂いと濃厚な味だった。京野菜の焼いたものがおいしいと典子は喜んだ。

須貝は珍しく日本酒を注文した。ワインは?と典子が聞くと、日本酒もなかなかいけますよという。典子も飲んでアッおいしい、お肉に合いますね。最近こうしたお酒があるのですよ、主に外国に送られていますと料理人が言う。

日が沈んでも空は明るく京都の街の明かりが少し感じられる頃だった。鉄板焼きの席からは外は自由に見えない。料理と話に集中した。典子は野菜がおいしいとよく食べた。ご馳走様と熱い茶を飲んだ。もう十分頂いたわと言いながら典子は須貝の方を見た。

白熱灯の黄色い光が典子の斜め横から当たっていた。光の影でその表情がドキリとするほど美しく見えた。この人にこんな表情があったのかと、須貝の心がざわついた。典子の乳房あたりがなんとなくその輪郭を作っているくらいだったが、典子の体が動くと裸身が動いているように見えた・・・。この体を俺は抱いていたのだ・・・。

典子に見とれていると、どこを見ているのと視線が笑っていた。須貝は戸惑った。自分の気持ちを察しているようにも見えた。戻ろうかと言うと頷いた。

カードで精算して部屋に向かった。エレベーターの中で、典子は須貝に向かい、小さな声でエッチと胸を突いた。須貝の心がはじけて血が駆け巡った。

部屋に帰ると須貝は待ちきれず典子を抱きしめてキスした。典子も髪を振るように抱き付いた。須貝は背のジッパーを一気に引きおろし、ワンピースを取り去った。ブラとショーツだけの裸が現れた。もどかしい思いで典子を抱き上げベッドに運んだ。

着衣をとる須貝をベッドの上の典子は笑いながら見ていた。裸になった須貝がブラをはずした典子のショーツを取った。裸の男女が激しくキスし合いながら絡み合った。会話もしないで始まったベッドはいささか乱暴だった。

突然レストランで抱きたい欲求が湧き、エレベーターの中で弾けた。自分の心の変化を理解しているように見える典子に須貝の気持ちが沸騰し、血がたぎってきた。

典子は求められたらすぐに受け入れることが出来る体になっていた。貫いてきた須貝のものから熱気を感じ、股間が燃えた。脚をかけて腰を擦り付けると快感がすぐに湧いてきた。短時間にかけ昇ることができるし、長い時間をかけて交わることもできる。典子は源二が好きなようにすればいいと思っていた。

広く開いて須貝を受け入れた脚を伸ばすと須貝の両脚が典子を内側にとらえて包み込んだ。典子は窮屈な穴にペニスがねじ込まれてくる感覚に痺れた。

結合してわずかの時間で典子は口を大きく開けて喘ぎ始めた。一旦典子を貫いたら、須貝は余裕が出てきた。激情に任せて突き進むことはしなかった。抱き付いてくる典子を抱え込んだら、典子の体は須貝の体におさまった。すぐに応えてくれた典子が須貝にはたまらなくかわいく思えた。こんな人になっていたのだ・・と思いながら抱いた。

反転すると白い裸身が男の上になった。太い2本の腕が白蛇のような体をとらえ、赤黒いペニスが女の股間を貫いている。見え隠れするペニスの動きにつれて女の腰がくねる。

典子の脚が須貝に巻きつくときもあれば、須貝に巻きこまれるときもある。当初の乱暴さが消え、結合した二つの体は静的ともいえる動きに変化した。

この日一度放出した須貝は持続力があった。受け入れる典子も継続する力をつけていた。声を出さずに唸るような交接が続いた。

口を開けて、頭をのけぞらせる時もあれば、須貝の胸に頭をもぐりこませ抱き付くときもある。典子の感覚は頂上に近い領域にあったがそれが持続した。紅色に染まった場所が顔から乳房にかけて拡がり、下半身の白さが際立った。

時々典子がずり上がった。須貝が体をもとに位置に戻した。赤黒いペニスが蝶番になっていた。波打つようにうねる典子の腰の動きは官能的だった。

西山に残っていたわずかな空の明るさが消えてから、もう数時間が経過している。京都の街の明かりは輝きを増していた。その中で白と黒の蛇がつがい合った。鱗がこすりあわされる音が聞こえるかのようであった。くぐもった声だけが聞こえる。

重なった二つの体がベッドの上を照らすにぶい光の中でうごめき続けた。典子には強烈な感覚が体の底から湧くように上がってくる。それは一度高みに昇って墜落していくエクスタシーとは違うものだった。湧いては消え、また湧いてくる。

間欠泉が時々湧きあがるように続いた。こんなこと・・・なんで・・と腰がひとりでに動く。いつまで続くかのようだった・・。ああ、イイ・・。

熱い時間が経過していく。典子は両脚を開いて須貝の腰に巻きつけた。須貝のペニスは典子の体を深々と貫いてポルチオを圧迫して止まった。典子はタイミングを計って自らを解き放った。押し殺した声で震える典子を感じて須貝は腰を典子にのめり込ませるように動かして果てた。

ふぅ・・・・。
ごめん・・。突然で・・。
源二・・・素敵だった。

典子さん・・。
典子といってよ・・。
・・・・・。
ねえ、典子と呼んで・・。
そう呼べば一緒になってくれる・・?

・・・・・?
典子・・好きだ。
・・・・?
突然だけれど・・・。
源二・・・?
典子・・・。

ちょっと・・?
ん・・?
また今度も計画があったの?
計画・・?
今度の旅行のことよ。そこでこの話が出る筋書き。
筋書き・・・?
広子さんが健吾をとって、源二が私をとる・・・。
まさか・・・そんな計画はない。

ほんとね・・?
そんな計画だと思ったのか。
だって、急に旅行の話が来るし・・そして今よ。
そう思っていたのか?
思っていたら来ないわ。

二か月前のことが頭にあった・・。
あの時はあなたがかわしたじゃないの。
あの時は・・。
私たち、いまのままがいいの・・。
・・・・。

なんで急にそんな気になったの?
やっぱり二か月前のことが伏線だった・・そしてレストランで君を見ていると急にどうしようもない気持ちが起きてきた。
広子さんは・・?
広子は納得してくれると思う。
広子さんなら・・・そうかもしれないけど。
そうだろう・・?

世間は・・・?
厳しい質問だな・・。
当たり前よ・・。
そうだよな・・。

あの時だったら・・・私も。
健吾君は・・?
あきらめたと思う・・。
いまはダメか・・?
いまはもうダメよ。健吾が大事なの・・。

典子は源二を見つめていた。官能を解放した後とは思えない力が目の中に宿っており、今のままがいいと須貝の気持ちを拒んでいた。

ダメか?
ダメよ・・でも源二は好き・・。

須貝が典子の乱れた髪を掻き上げて、キスすると濃厚なキスが返ってきた。好きだというと、いまのままの典子を愛してといい、弾力のある乳房を須貝の胸に押し付けて抱き付いてきた。

この私を愛してくれる気持ちだけでいいのよ。
何時もそばにいてほしい・・。
出来ない相談はダメ・・。

もう一度典子の上に重なり、抱きしめて乳房に唇をつけると、吸ってと体を源二に預け、須貝の髪の毛に指を絡ませ、源二は素敵・・・という。

事後の乳房は汗でしっとりとしていた。この乳房を誰にもやりたくなかったのだといって須貝は吸い付いた。いいよ・・このオッパイも私の体も全部が今は源二のものよ。

今だけでなく何時も・・。
ダメ・・今だけよ。

典子・・・。
源二・・・ごめんね。
無理なことか・・。
今のままがいいのよ・・。
今のままか・・・。
そう・・今のままよ・・。
・・・・。
ごめんね・・。健吾は大事な人なの・・。

それからはただ抱き合い、キスし合い、夜が更けた。須貝のものが勃然と立つ時もあったがもう交わることはなかった。抱き合いながら話は続いたが典子の気持ちはかわらなかった。須貝が二か月前だったらなあ・・と言った。あの時なら私も・・と典子がいって笑った。惜しいことをしたなとついに須貝が笑った。そうね・・惜しかったわね・・。

また時間が過ぎて行った。ベッドの上の動きは続いていたがだんだん静かになりやがて須貝が眠った。須貝の寝顔を見ながら典子はぼんやりと考えていた。源二の言葉に迷うところがなかったといえば嘘になるが、答えは決まっていた。健吾と別れることはない。

小田原駅で別れた時の健吾の顔が浮かんだ。須貝のことを予想していたのだろうか、そんな気もする。だったらなぜ私をここへ・・・。やはり妻を取り換える話があったのだろうか。むかし佐藤春夫が谷崎潤一郎の妻千代に惚れて、千代を貰い受ける話をしたことがあった。あれは谷崎が小田原に住んでいた時の話だった。話は途中で壊れたがその後10年ほど経って佐藤は千代と結ばれた。10年経てば私は健吾と別れるのだろうか・・・でも健一はまだ大学にも行っていない時期だ・・・・。

お休み健吾、でも源二の告白はこれからの宿題になると思いながら眠った。

〈中之島〉
中之島はかつて日本の中心地だった。大坂夏の陣のあと、淀屋常安によって開発が始まり、江戸時代は日本の台所と言われる賑わいを見せていた。明治になって、一時首都を大阪にする計画があったとも伝えられており、それほどに大阪は日本の中心地だった。

中之島と呼ばれるように、ここは旧淀川の中州である。ノートルダム寺院がセーヌ川の中州にあり、中州はシテ島と呼ばれている。そこがパリの中心だとパリジャンが自慢するように、中之島は大阪人の心の中心である。首都が東京に移って以来、大阪の勢いに翳りが出る。翳りは出たが、20世紀の初頭はまだ勢いがあった。その頃の様子を偲ぶことが出来る建物群が健在で、独特の美しさを今も持っていて、中之島は大阪人の心のふるさとである。

日本近代建築の創始者のひとりである辰野金吾の設計よる日本銀行大阪支店や、中央公会堂がある。辰野の設計では東京の日銀本店や東京駅も有名だが、中之島を須貝は典子に見せたいと思っていた。中之島はシテ島とほぼ同じ面積で、その町並みもよく似ている。そこを須貝は典子と歩いてみたかった。

仰臥した姿勢で両手を胸に置いて典子は眠っている。その横で、須貝も眠っていた。京都の夜は明けて7時半だった。

携帯のアラームで典子は目を覚ました。昨夜典子が設定した時間である。須貝の眼を覚まさせないようにベッドを抜け出して浴室に向かった。

シャワーを浴びて、丁寧に体をきれいにした。今日はホテルを出るからと思い、髪を洗ってブローしてから浴室を出た。ベッドを見ると須貝はまだ寝ていた。可愛いと頬にキスすると須貝が動いた。バスタオルだけの典子が立っているのを見た。

お目覚め?
ああ、これは?
昨夜は先に寝ちゃったのよ、あなた。
ごめん・・・・。

今日は大阪を案内してくれるのよね。
ああ・・。
シャワーを浴びなさいよ。
うん・・・・。

須貝はあわただしく浴室に消えて、しばらくして出てきた。典子はバスタオルをはずしてベッドに横になっていた。窓からの逆光の中で典子の裸の輪郭が光って見えた。

ちょっとだけ来て・・。
・・・・・。

須貝もバスタオルをはずして典子に並びを抱きしめ、キスすると典子は静かに応じた。シャワーの後の湿り気を帯びた肌が気持ちよく、須貝のペニスが立ってきた。典子はそれを押さえて、これはいいのよという。

すこしの間だけ抱いて、また始めると歩けなくなる・・。
俺のこと心配しているのか?
自分よ・・。
典子は強い。
でも今朝はダメ・・。

ホテルは9時前にチェックアウトした。タクシーで京阪三条に行き、電車で淀屋橋に向かった。沿線には水田が市街地の中に残っており、稲が刈り取られたあとが空地のように見える。大阪に近づくにつれて町屋が増えてきた。

市内に入ると電車は地下にもぐり、終点の淀屋橋で降りる。地上にあがるとそこが淀屋橋の南詰で、前の道路が御堂筋である。

橋を渡って川向うが日本銀行大阪支店旧館ですぐだった。新館は旧館の裏手に作られ、東京の日銀本店と外観は同じ造りで特徴がない建物だった。

日銀の向かいが大阪市役所でそこから日銀旧館正面がよく見える。低い建物だが、ネオ・ルネッサンス様式だ。須貝はこの建物は1903年に作られたが、1980年のはじめに補修工事が行われたことを話した。

補修といっても外壁だけが残され、内部は完全に改変され、大階段と貴賓室が残されたくらいだと言う。内部は見学できるのかと典子が問うと、予約すれば出来るが、係官の説明は主に日銀の金融面での役割について話すのだと言う。

東京の日銀本館は大阪支店が出来る少し前に作られた。硬い感じの建物で、丸いドームのある支店の方が落ち着いた綺麗さがあると須貝はいう。丸いドームを真ん中に左右に四角錐のドームがあるが、四角錐型の部分はあまり目立たない。向かいの大阪市役所の玄関に移動して眺めると全体がよく見えた。

須貝は建物を見ながら楽しそうだった。ものを見るにはそれなりの知識が必要だ、そうしたものを持っていない自分は須貝とは違う見方をしているのだと思うと典子は少し残念な気がしていた。

あなたは知識があるから、楽しそう・・・。
いいものを見てたのしければよいのですよ。
知識がないから・・。
この建物、綺麗でしょう。
綺麗です・・。
これを素直に感じればいい・・。
ええ・・。

須貝の建築についての説明を受けながら中之島を歩いた。島は二つの川に挟まれ、その水辺を須貝と並んで歩くことが出来るのはうれしかった。

市役所の建物から歩いてすぐのところに日銀大阪支店とほぼ同じ時代に建てられた中之島図書館がある。住友家の寄付で作られたもので、イギリス風の重厚な正面玄関が眼をひく。ここには開設に当たってたくさんの図書や資料が寄付されていて、近世の大阪の歴史が詰まっていると正面玄関で須貝の説明をしばらく聞いた。

更に東に行くと中央公会堂がある。ここは100年ほど前に大阪の相場師で有名だった人の寄付で出来たもので、勿論ここも辰野金吾などが設計に絡む建物だという。絡むってどういうことと典子が聞くと、設計は別の人で建設全体の責任者が辰野だという。

更に須貝は平成になって公会堂の耐震性が問題になり、取り壊す話があったが改修することになったことや、その大改修に関する技術的な話を始めた。典子が戸惑ったような顔をしているのに気付いた。

ごめん、ちょっとしゃべりすぎた…。
情熱的ね・・・。

そういいながら典子は別れた恋人のことを思いだした。あの人と同じだ・・。話し方がそっくりで・・・と思う。

昼は改修時に増築されたレストランを利用した。品数はないが歴史的建造物の中での食事と思うと面白い。

昼食のあと、コーヒーを飲み公会堂を出た。そこからさらに東に向かうと島の幅が狭くなり、両方の川が見える。島を跨いで走る難波橋が見えてきた。石造りの橋だと思った。須貝はこの橋の由来を説明した。

1900年のパリ万博でシテ島の先端に建設されたアレクサンドル3世橋を参考にして、万博の12年後に難波橋が建設された。景観を考えて建設したために石造り風にしたこと、そうしたことをまた例の調子で説明し始めた。その話は典子にもよくわかった。

そこを抜けてさらに東に行くと、途中が小さな橋になっており、その先は人工の島だと思えた。このあたりは川の浚渫の際に出た土を利用した埋立てだと須貝が説明する。このあたりが剣崎と呼ばれる、左手の岸に桜の並木が見えるでしょう、あそこからずっと川岸には桜の樹が多く、さらに行くと造幣局の通り抜けに続いていますよ。

通り抜けって、あのボタン桜で有名な・・・?
春は見事ですよ、このあたり・
大阪が好きなのね・・・。

いや、東京も好きです。建物としてはやり東京でしょう。でもね、かつて全国を制覇した大阪を感じることが出来るここはとてもいいところだと思っています。関西が好きなのは祖父が福知山の出身だからかもしれないけれど・・。

釣り人の姿が見えるわ、何が釣れるのでしょうね。
さあ、鯉とかフナとか・・でしょうか。
のんびりしていいわね。

遊覧船のようなものも見える。ああ・・素敵なところね。
いいでしょう。
水が近くに見える風景って素敵ね。

水の都といわれたところですから・・。むかしの地図では大阪は水路だらけですよ。でも埋め立てられて今はほとんど残っていない。保存しておけば、いま頃は世界的に有名な都市になったものと思いますが。人は先のことがあまり考えられないのかなあ・・。

そうですよね。
自分だって田舎の古民家をぶち壊しているのだから、えらそうなことは言えないのですがね。

須貝の説明を聞きながら、近江八幡の水郷をあの人と船で下ったこと思いだしていた。人は先のことがわからない・・・。今頃どうしているのだろう。友達の話では大学に席を得たあとまた2年ほどカナダに留学していたとか聞いたけれど・・・。あの人は大学院の途中でスエーデンに行ってしまい、その頃から疎遠になってしまったのだった。あの人が悪い訳じゃない・・・。偶然の積み重ねが人を押し流していく・・・。ぼんやりと遠くを見ていた。

・・・・何か?
いえ、ちょっと、・・・。
こんな話退屈ですか?
ごめんなさい、人は先のことがわからないと言われて・・・。
急に健吾君のところに帰りたくなったとか・・・。

いえ、ごめんなさい。
そうですね、先のことは分からないものですね。
二人でこんなところを歩くなんて・・。

あなたに私の話が飽きられたのかと・・。
そんな・・・。とても面白い話で引き込まれ、つい昔のことまで考えて・・。

ほう・・昔の話。
あなたと同じような話し方をする人がいたの・・。学生時代。
恋人だった?
どうかな・・。そうかも、そうでないかも。

建築の人?
ええ、今は大学の研究者。
そうした人とお付き合いがある・・・。
いえ、今は・・もう。

でも、思い出す人なのだ・・。
あなたに似ていたからよ・・。
じゃあスケベな人だった。
それはわたし。その人は真面目な人。
これは失礼なことを・・。でも大学の建築の先生なら私も何かの機会にお会いしているかも知れないね。お名前は・・?

いいの、今は遠い人だから。
でも真面目な人との交流は大切ですよ。
何だか私たち真面目じゃないみたいね。
ある意味では。
・・・そうですね

剣崎から引き返してまた難波橋の下まで戻ってきた。
須貝が丁度時間ですから、ホテルに行きましょうかと言う。

なにわ橋駅から京阪中之島線に乗った。終点は三つ向こうの中之島駅で、すぐだった。地上に出ると左手に大阪の中心地には不釣り合いな巨大空間があって典子は驚いた。

ここをどうするか決まっているのかしら?
さあ、水の都のイメージを壊さずに何が出来るか楽しみです。パリのシテ島みたいな文化の中心にするくらいの意気込みが必要だと思いますが、どうなることでしょう。

そんな話をしながらすこし歩くとホテルに着いた。部屋は20階で、窓からは先ほどの巨大空間がすこし遠くになり、川を隔てた新規ビル群が目の前にあった。堂島川の水面が光り、大阪平野を越えて北部の山並みが遠望される。

学部時代に親父に連れられてここを見に来たことがあるのですよ。まだ古い建物が残っていて、これが壊されて新しいものが出来ると説明してくれましたがね。
なにかイメージが湧きました?
なんの・・・。当時の若造には想像もできないものでしたよ・・・。

大きな開発に興味はおありですか?
無理ですよ、地方の不動産屋兼建築屋ですから・・・。

こうした開発はオリックスなどの巨大資本が絡むこと、そこと関係のあるデベロッパーが取り仕切ることなどの仕組みを説明し、ここに歴史に残るものが出来るかどうか、難しい問題だという。

夕刻までの長い時間を須貝は都市開発の問題を話した。自分にはかかわりがないといいながら、熱心に話すのを聞いていると、典子は須貝が若い頃にはそうした分野に進むことを考えていたのかと思う。

人はどのように路を選択するのだろう。須貝がその分野に進んでいたらこうして出会うこともなかった。またふと、あの人とはどうして別れたのか・・などと思いめぐらせながら話を聞いていた。話は尽きなかった。

ホテルの部屋に入ってすぐに抱き合わなかった。須貝が求めれば応じたと思う。須貝が求めなかった理由は分からない。昨日典子は告白を受けた時、健吾とは別れないといったことが原因だったのだろうか。

夕食はホテルを出て、キタの新地の料理屋だった。刺身のおいしい処で、須貝はお酒をかなり飲んで上機嫌だった。その上機嫌さは、典子が思うようにならなかったことへの裏返しなのか、典子は複雑な気持ちで須貝の話を聞いていた・・。

何か・・?
えっ、・・・。
また何か考えていましたね。
いえ・・。
また昔の彼氏?

健吾のこと・・。
これは失礼した。
健吾一人さみしい夕飯だと思うと・・。
・・・・。
いいのよ。

酒が切れた。須貝が何か注文した。

いい酒です、いかがですか。
頂きます・・。
これは隠れた伏見のお酒ですが。
そうですか・・。

それぞれの造り酒屋は、大手と協定して造る一定量を確保するのです。そうすることで経営が安定する。その場合は大手の注文通りの酒を造るのです。しかし自分のところの独自のものも作るのですよ。

おいしい・・。
でしょう・・。
こちらには灘とか伏見とか銘酒が多いのね・・。
お酒はこちらが本場ですよ。

そして酒の歴史を須貝からたくさん聞かされた。室町時代から明治の時代までの話が典子には驚異的な内容だった。須貝の知識の量にも驚かされた。

どうしてそんなに・・・、お酒の方まで知識がおありですか。
いや、聞きかじりばかりですよ。
でもすごい・・。

私たちの仕事は建築そのものに関する知識以外に、古い時代のことを知らないと仕事にならないのです。モノを見る目がないと・・・。もっと勉強しなければなりませんが、こればかりは師匠が居ないと・・・難しいのですがね。私の師匠は父親でしたが、あまりレベルが高い人ではなかった・・。仲間との付き合いでぼつぼつです。

そしてまた古民家についての話を聞いた。

料理屋を出て、もうちょっと飲みませんかという須貝に、もう十分頂いたから帰りませんかというと、そうですねと素直だった。タクシーでホテルに帰り部屋に入ると、少し飲みすぎたみたいだ、典子さんの忠告がよかったという。

典子と呼んで・・。
また典子さんに還ってしまった。
いやよ・・。

須貝の心がまた前の状態に戻ったと思いながら、着衣のままベッドに倒れ込んでしばらく抱き合っていた。

少し酔ったみたいね。
うん、少しね。
須貝さんにしては珍しいじゃないですか?
あなたも須貝さんに戻ったよ・・。
ア・・・。
気楽に行こうよ。

お水飲みますか?
あぁ・・もらおうかな。

起きあがって氷水の入ったジャーから水を取り、須貝に渡すとうまそうに飲んだ。

おいしい・・・。
もう一杯?
いや、これでいい。

立ったまま典子は聞いた。

大きな仕事をするプランナーになりたかったの?
分かりますか。落ちこぼれです。
そんな・・。今のお仕事はとても素敵だと思いますよ。
いやいや・・。

大きな事業も面白いでしょうけれど、全体的にはまとまりがつかないまま進んでいるようで、気になります・・。
大事なポイントですよ、そこは。
私・・・小さな仕事が面白いと思う・・

そういってくれるとうれしいが、それでも壊しているのですよ。
何を・・?
地方は地方のままでよくならないといけないのに・・。
そのようにはなっていないと言うの・・?
うん、難しいことだらけでね・・・。

今日はたくさんお話しを聞いたわ、お風呂に入りませんか。
そうしようか。
でも、お酒飲んだばかりで大丈夫・・?
年寄り扱いをして・・・でももう五十だ・・。

昨日京都で須貝に一緒になろうといわれ、断ったが、須貝が好きなことに変わりはない。今日はその延長でよいと思った。

典子はぬるめの湯を張った。典子は背中を須貝の方に向けて抱かれた。須貝は典子の乳房の上に手を廻し、抱き寄せ、ぬるめのお湯で疲れがとれるという。今日はいろいろの話を聞かせてもらった、あなたと一緒に来て面白かったという。典子の肌はお湯をはじいて見事だった。須貝は唇をつけた。典子は須貝の肩に頭を乗せると須貝の唇が首筋を這い、乳房が揉まれた。気持ちが昂ぶってきた。

ねえ、源二。典子の大切なところ洗って・・。
また源二といってくれたな・・。

須貝の指が侵入してきた。

こんなことさせながら、須貝さんとは呼べないよ・・。
そうだね。

首筋に唇を這わせながら須貝は典子の股間に伸ばした指を動かした。典子は脚をひろげて須貝の指が動かせるようにした。だいじなものを扱うように須貝は繊細なタッチで洗った。あぁ・・とため息のような声を漏らしながら指が動くのに任せた。指が中に入る時もあった。だんだん股間の感覚が強くなっていく。

たまらず向かい合って須貝に抱き付いた。向かい合って激しくキスをした。やがて須貝は典子の体を持ち上げるようにして乳房を吸った。乳首ははじけるように立っていた。のけぞった典子の腹部に唇を移し、さらにその下に唇を持って行く。典子がタブに手をかけて体を浮かせ須貝から離れると、須貝の口は典子の股間を捉えた。先ほど須貝の指が入っていたところに舌がうごめいた。鋭い感覚が湧いてきた。

しかし典子はそこまでで止めた。ねえ、上がりましょうというと須貝は立ち上がり典子の体を引き上げて立たせた。

体を拭き合って、裸のまま典子はベッドに向かったら、須貝は入口のドアのほうに歩いて室内灯を全部消した。えっ・・と思って振り返ると須貝は外を見せましょうという。須貝が窓のカーテンを全部開けた。外にはほたるまちの明かりで一杯だった。

きれい・・・。
でしょう。

後ろから典子を抱き、両手で乳房を覆った。典子は振り向いて須貝にキスして、またほたるまちの光りに見とれた。ほたるまちの光りを受けて典子の顔が窓に映っていた。

あの高い建物が、ザ・タワー大阪、その下に見える低い建物が朝日新聞とABCホール。少し遠くに見えるのは梅田・・大阪駅のことですよ。そのずっと向こうは神戸の街の明かり。神戸の街の上に暗いけれど灯が見えますよね。あれは六甲の山並み・・・。

遠くまで見えますね。
結構いいでしょう。
ええ、素敵。

夜半過ぎは荒れるかな・・。
今夜はおとなしくしましょうよ。
えっ・・?
ゆったりとしたいの・・・。
・・・・・。

カーテンを開け放ったまま二人はベッドの上で抱き合った。星空の明かりだけの室内だった。須貝に組み敷かれながら、典子は窓の外を眺めると星が綺麗だった。北の空に輝く星の中には北斗星もあるだろうが詳しい星の名前は知らない。須貝の唇が体中に這いまわることを感じながら、遠くを眺めていた。

あの人はどうしているかと思った。10数年前の記憶が、須貝の唇が下肢のつけ根に来た時さえ、消えなかった。今日一日ずっと聞かされた須貝の話から、あの人との思い出がどうしても蘇ってくる。楽しい思い出もあったが、それだけではなかった・・・。その別れ方が気になっていた。源二に似ている・・どうして別れたの・・・いまさら考えても仕方ないけれど・・・。

須貝の舌が典子の中心を捉えた時にようやく典子の意識が転換し、気持ちがやっと須貝に向けられた。

源二・・、イイ・・。
何を考えていた?
イイ・・。
誰かを考えていたでしょう・・・。
あぁ、イイ・・。続けて・・。
健吾君のことではなかったでしょう・・・。

須貝はクンニの途中で時々顔を上げて典子に話しかけた。

典子は海のような人だな・・・。
源二・・・・。
何もかにも呑み込んでゆく・・・。

ねえ、来て・・。

須貝は体を起こして典子の両脚を割った。

典子・・・。
あぁ・・・源二。しっかり抱いて・・。
何を考えている・・?
何も言わないで・・。

50歳を超えた男には、放出が重要ではない。このヴィーナスのような人を抱いていることがうれしかった。ワンピースの中を想像した時の感覚が蘇った。その体を抱いている・・・。ぐんと自分のものに芯が通り、荒々しく立ち上がるのを源二は感じた。典子は両脚をひろげて迎えて、すぐに両脚を須貝に絡めて抱き合った。

キスし合いながらゆったりとするのが好き。
うん・・。
わたし今夜は荒れないから・・。
嵐の前だよ・・・。

そして京都の夜が再現された。時折典子が伸びあがるように体を反らせた。須貝が引き戻し、抱きしめる。またしばらくすると典子が反って伸びあがる。

長い時間須貝が上になってゆっくり抽送しながら典子の体を撫でまわした。ゆっくりした交合でも確実に芯を捉えて離さない須貝のテクに典子は酔っていた。

そして反転して典子を乗せた。典子は須貝に抱き付いて頭を須貝の胸に密着させ、腰だけを前後にゆっくり動かした。蛇の交合に似た動きをしながら典子は須貝に没頭した。眼を閉じ、眼をつむって集中する典子を須貝は上手に扱った。

しばらく動きが止まる時もあったが、また始まる。典子と源二の腰のうねりはいつまでも続いた。ゆっくりとしたストロークを続けた。ゆっくりしたセックスが好きと典子はまたいった。

典子の体の震え方や息遣いから須貝は典子が連続するエクスタシーを経験していることがわかっていた。・・それを連続させている・・・。

星明りだけの暗い室内で典子の顔は明るいところでは見せることのない顔貌だった。顔にしわを寄せて震え、須貝にしがみつきながら典子は体が溶けはじめたと感じていたが、腰だけは動かしていた。

やがて第一波と言える時期が過ぎた。典子は少し落ち着いた。須貝は進行の度合いを調節しながら、ゆったりとするときもあり、アクセルを入れる時もあった。緩急が自在で典子は夢幻の世界をさまよった。

波の底に来たときに、源二・・・たまんない・・と典子がいう。もうどこへ行ったらいいのか分からない、源二・・何とかして・・という。くぐもった唸りが典子の口から洩れている。・・・ねえ源二・・ねえわたしどうなるの。

須貝はそろそろだと判断し、反転して典子の上になり腰を強く押し付け、ペニスを数回深く突いて体重をかけた。・・・・典子はこれを理解しているはずだ。

ホテルの部屋を意識しているのか典子は低く呻きながら身をよじり、全身を震わせて須貝に絡みついた。同時に須貝が解き放った。膣の奥に広がる熱い感覚はフィナーレを告げるものだが、それは典子が待ち望んでいたものだった。爪を須貝の背中に食い込ませながら押し殺した唸り声をあげた。

長い沈黙が続いたあとに典子は須貝に話しかけた。

源二・・・・。
ん・・。
私たち、どうなるのかしら・・・。
明日には典子は健吾君のところに帰る・・。
そのあとは・・・。
君たちの日常が待っている。

また逢いたい・・。
逢えればいいが・・。
逢いたい・・。

京都で俺の言ったことが引っ掛かるのか・・?
ごめんなさいね・・。
いや、考えて見れば無理なことだったな・・。
でも・・うれしかった。
そう言ってくれるのは救いだけれど・・。

ぼそぼそと会話が続いた。典子が須貝を抱きしめキスする場面もあった。須貝の大きな手が典子の腰を抱いて、乳房に唇を這わす時もあった。余韻はまだ体の芯に滞留していた。また燃え上がるかのような動きもあったが、二人の気持ちは徐々に鎮まって行ったようだった。

先に眠りに落ちたのは昨夜と同じく源二だった。典子はそれからシャワーを使い、裸のまま窓辺に立ち「ほたるまち」の夜景を見た。遠く大阪北部の灯がびっくりするほどきれいに瞬いていた。あの光の中に自分のような生き方の人もいるだろうかと思いながらカーテンを引いた。室内灯を点けて須貝に寄り添って横になった。

この人の気持ちを受けなかった・・しかし私を想ってくれる気持ちがうれしかったから体の芯に響くセックスになったと思う。須貝の気持ちを受け入れたらどんなことになるだろうか・・。そう思いながらも受け入れることなど出来る訳がないと思う。

これからも健吾が許せば須貝さんと逢うだろう・。今と同じような気持ちを保てるだろうか・・。須貝の寝顔を見ながら典子の心は揺れた。

外は大荒れになっていた。窓を叩く雨の音が強くなり始めていた。夜半過ぎから天気は崩れた。

〈あべのハルカス〉
朝も天気は荒れていた。風雨がつよく、空は暗かった。須貝は新聞を見ながらやはり低気圧だったね、昨夜街の灯が遠くまで見えたから、あるいはと思っていたと言う。
あら、夜遠くの灯が見えると天気が荒れるの?
昔からそう言うね。

雨がホテルの窓を叩いていた。雨のホテルか・・と須貝はつぶやく。

別荘だったらどんな風景になるのだろう・・。
朝からおいしいお酒を飲みながら、休養するのもいいかもよ・・。カエデの葉が吹き飛ばされるのも、雨が庭石を叩くのも・・悪くはないわ。
君と見たいな、嵐の夜明けを・・。
心を惑わすこといわないで・・源二。
妄執か・・・。

昨年完成したあべのハルカスをまだ見ていないと須貝はいう。昨日の中之島東部とは違う超近代的な建物だと言う。朝食をホテルで済まして出かけた。地下鉄を利用できたので、天気は問題にならなかった。

出来上がった大阪の町の真ん中にこんな巨大な日本一のビルを作る苦労を須貝が説明した。耐震構造の新機軸が詰まっていることを典子でもわかるように説明した。ビル建築の技術が高度に発達し、もう何でもできる気がすると典子は言う。そう、耐震理論と技術が非常に発達したからね。しかしどこまで建築技術が発達しても人間の心がそれについていけなかったら意味はない・・そんなことを時々思うと言う。

ビルの中にあるハルカス美術館に寄ってみた。フィラデルフィア美術館から浮世絵が里帰りしていていた。展望台にも上った。建物は60階作りで59,58階も含めた3層の展望台が売り物で、予約しないと入れない日もあるくらいの盛況ぶりだが、この日は嵐でさすが入りは少なかった。晴れていれば京都あたりも見えるという。

建物内部はなんとなく冷たい感じのする構造ね。
最近こんな造りがはやっている、昨日見た中之島の建築群とは明らかに違うだろう。
昔のものがよく見えるのは、希少価値からかしら。
難しい問題だな、いいものだけが保存されているということもあるから・・。

典子は母親に関西の土産を買いたいと、地下に降りていくつかの品をそろえた。昼食を一緒にして、新大阪に出た。午後の2時過ぎだった。丁度14時43分のこだまがあることは知っていた。須貝は同行して京都まで行きそこで降りた。まだ仕事が残っており、先日厄介になった京都の同業者が明日再び古民家の調査に同行してくれるという。

〈典子を待つ健吾〉
帰る時間を典子は健吾にメールしていた。小田原駅で待っていると返事が来た。新幹線を降りて出口に近づくと手を振っている。急に動揺した。須貝とのことをどう話してよいか心の準備していなかった。小田原を出た時といまは違った状況なのだ。須貝のことを健吾にどのように話したらいいか、いやだな、どうしようと思う。健吾に向かって歩きながらなんとか動揺を納めたが、健吾がお帰りという距離に来てもまだちょっと戸惑った顔だった。

ん・・と典子の顔を見てどうしたと言う。いえ、ちょっと・・・と誤魔化した。

たのしかった?
たのしかったよ・・。
今度はあまりふさぎ込んでいないね・・。
なによ、もう・・・。

健吾は真面目な顔で、帰って来てくれてありがとうといった。典子は立ち止まった。健吾、考えていたのと聞いたら、帰ろうよとだけ言って歩き出した。

西口の駐車場に向かった。車内で二人になるとなんとなく話題がない。困ったなと思っていると、健一を迎えに行こうと健吾がいう。健一のことを忘れていた・・。迷惑かけなかったかしらと言ったが、取ってつけた言葉だった。父と母に大阪のお土産があるから丁度良かったと誤魔化した。私は何を考えているのだろうと思う。

母は典子の姿を見て、少し太ったかね、それにしても地味な格好だよと笑う。父が顔を出して、典子ももう中年か・・・とからかった。健吾は健一がお世話になりましたと挨拶すると、こちらは健一が来るのを楽しみにしているから、いつでもどうぞという。健一を中にして少し話題が出来たのでほっとした。

急いで夕食のしたくをして、実家での健一の話を聞きながら、何とか食事の時間を過ごした。10時を廻って健一は寝た。風呂に入って寝室で健吾と向き合った。

わたし、あれから健吾ときちんと向き合って来たよね。
うん、しかし、俺から関西行を持ち出された・・・・・。
健吾が何を考えているか分からなかった・・。
でも出かけて行った。
逢いたかったから。

場合によっては俺と別れることになると考えていた?
考えるわけはないでしょう。
じゃあ、することをしに行っただけか・・・。
・・・・身も蓋もないいい方ね。

それで社長はどうだった? ベッドで・・・?・・・素敵だったよ。
二か月前を思い出した?
そうだよ。でも前みたいに中味を話すのはいやよ。
うん・・。
文句ないよね・・・?

他には・・。
尋問するみたいないい方ね。
そうではないけれど・・。
なにが聞きたいの。
だって、変な顔して帰って来たからさ。

須貝さんに告白された。
一緒になりたいと・・?
ええ・・・。

うれしかったか?
うれしかったわ。
・・・そうか。

でも健吾とは別れないといったよ。
社長は・・?
そうだろうなといったわ。
・・・・そうだろうな。

健吾は私がここから出て行ってもいいの・・?
ダメだよ。
だったら、何故行くのを許したの?
典子の心が揺れていたからさ。
あの時からずっと私が揺れているように見えたの?
いや、時々だ。
分かったの・・?
分かるさ、夫婦だから。

だから試したの・・・。
試したと聞かれたら、試したことになるかなあ・・。
いやよ、そんなの。
でも行ってよかっただろうが・・。
試されるのはいやよ。

結局は自分で決めるものだからな・・。
私たちが壊れたらどうするの。

壊れるかなあ、でも壊れたら二人の責任だね。
そんなこと、よく簡単に言うわね。
壊れないと思っていたから。

どうしてそう思ったの。
日頃の典子からさ。
そんなこと話したことはなかったじゃない。
いや話しているよ。・・・黙って話をしている。
なにそれ?
夫婦の会話はそんなものだよ。

離婚はいま増えているよ・・・。
増えているけれど、結局その夫婦の問題さ。
私たち別れないと健吾は分かっていたの?
そうだよ。

わたし須貝さんが好きよ。
社長も典子が好きだといっただろう。
うん・・。
それでいいと前にいっただろう。
また逢ってもいいの・・・?

いいけど、典子は俺が好きでなくなったの?
好きだよ。
好きでも、時々俺と別れたいの?
うん・・・。
それを以前俺が言ったら典子がすごく怒ったよね。意味が分からないと・・・。
怒った・・? 
怒ったよ。
ああ、思い出した。そうだった。ハハ・・。
アハハか・・?
わたし変った?
すこし太った。
バカ・・。

健吾がなぜ自分を須貝と一緒に旅行させたのかまだ真意が掴めない。燃え上がることは分かっていたはずだ。私は踏みとどまったが何処まで健吾は自分を理解しているのか・・・典子は測りかねた。

変な顔だが、まだ何かあるのか・・・?
逆に聞きたいわ、私に隠していること、まだあるでしょう?
いや、何も。
なぜ危険な旅行に行かせたのか・・まだわからない。

ほう、危険だったのか?
そういわれると、困るけれど・・・。
危険なほどに社長とはよかったのだ・・。
しらない・・。
おやおや、じゃあ今夜はお休みだな。

・・・・してもいいよ。
何だか変な言い方だな。
だって・・。前みたいに混乱しているなんて思われたくないから・・。
そんなこと気にしていないよ。
うそ・・・、気にしているわ。
気にしているかもしれないな・・・・。
正直に言うと、健吾が時々わからない時があるの。
いまわからないか・・?
うん・・。

健吾は典子を抱きしめた。健吾の胸に顔をうずめて典子は黙って健吾に抱き付いた。健吾はこの体が社長と激しく絡み合った体かと思うと妙な気がした。嫉妬とは違う気分だった。じっと抱きしめていると典子が顔を上げて健吾を見た。しないのかと聞いている眼だった。

眠ってもいいよ。
しないの・・。
今夜ぐらい旅の思い出を胸にして眠るのもいいだろう。
ほんとにそう思うの?
本当だよ。

典子・・心が揺れたの。
そうだろうな・・。
でも・・健吾が好き・・どうしてかわからないけど。
どうしてかわからない・・・? ほかに言いようはないのか?
いいじゃない・・それで。
なんか理由はないか・・?
好きなことに理由はないよ・・。

やがて眠った。そんなに疲れていたのか・・・と少し胸に感じた。

第3話 完
                        

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