欲孕
「貴方の子供が欲しいデス」
一瞬、何を言われたのか解らなくて呆然と立ち尽くした。頭の中で言葉の意味を考えながらも、思考が真っ白に…。
「…えっ?」
ロシアからの留学大学生ソフィーナはバイト先の同僚。女が苦手な俺としてはわりと仲良くしている方の彼女。そんな彼女が突然、俺にとんでもない言葉を投げ掛けてきた。
「えっ、なに?なんで?いや、言葉が間違ってる…?」
恋人でも無ければ、奥さんでも無い彼女からのそんな言葉は俺にとって困惑でしかない。一瞬は告白かとも考えたが、俺の人生上あり得ないので更なる速さでそれを打ち消した。
そこで気が付くのが外国人留学生である故の言葉による間違い。ソフィーナは何か俺に言いたかったのだが、意味を取り違えて言い間違いをしているのだ。
そのことに気が付いた俺はソフィーナに言う。たぶん、言いたいことと言葉が間違っていて、君はとんでもないことを言っているよ…と。
だが、そんな俺の気遣いと憶測はソフィーナの更なる言葉によって打ち砕かれる。
「いいえ、言葉は間違っていまセン。貴方の子供を私に産ませて欲しいのデス」
絶句した。
確かにソフィーナとは二年間苦楽を共にしてかなり仲良くなった。が、しかし、そんな関係になど一度もなったことはない。デートもキスも手でさえ握ったことなど無いのだ。
なのに彼女は何故か俺に俺の子供を産ませて欲しいと言う。
俺は自分の頭がおかしくなったのか、それともソフィーナの頭がおかしくなったのか解らなくなってしまう。あまりにも彼女が平然とそれを言ってのけるからだ。
「えっ、なんで?いや、意味が解らないし。…冗談?」
ソフィーナは頭を横に振る。そして、困惑する俺に何故自分に俺の子供を産ませて欲しいと言ったのか、その理由を語り始めた。
ソフィーナは小さな頃から日本が好きで、大きくなったら必ず日本に行くと決めていたらしい。そして、いざ日本に着いて住み始めたら、ますます日本のことが大好きになってしまったのだという。
ただ、留学生は成績が悪くなり一定の水準を下回った場合、強制的に国に帰されるらしい。日本の留学生事情は思った以上に厳しい。
なので、彼女は一生懸命に勉強をした。好きな日本文化を長く堪能する為に彼女は好きな日本文化をそっちのけで勉強に励んだ。しかし、ふと気付いてみれば留学もはや三年目。卒業も間近で彼女にはもう時間が残されていない。
でも、彼女にはたくさんの心残りがあるのだ。
つづく
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